読書メモ。
- 仮説思考 - BCG 流 問題発見・解決の発想法
- https://str.toyokeizai.net/books/9784492555552/
仕事の速さ・出来栄えを決めるのは何か? それは「分析力ではなく、仮説である」と著者は説く。
はじめに #
多くの同僚の仕事ぶりを注意深く見ていると、分析力のあるコンサルタントとして大成するかというと、必ずしもそうではない。優秀なコンサルタントでも、分析力はいまひとつではないかと思う人もいる。ただし、優秀な人は総じて問題を素早く発見したり、解決策にたどり着くのが早い。どうやら分析力や情報収集といったスキルの問題ではなく、ものの考え方や仕事の進め方に差がありそうだ。
自分の新人コンサルタント時代を振り返ってみると、合点がいく。当時、筆者は「枝葉の男」と評されていた。細かい分析は得意だし、ちょっとしたアイデアをすぐ思いついた。しかし、幹の仕事、つまりコンサルタントとしてのもっとも大事な仕事である問題解決の全体像が描けないでいた。手当たり次第に情報収集を行い、人一倍に分析作業を行うものの、有益な分析結果が少ない。ゆえにさらなる情報収集・分析が必要になるという悪循環に陥っていた。問題の本質に到達するのに、膨大な時間を必要とした。ときには、問題の本質に到達する前に時間切れになったことさえあった。
この悪循環から筆者を救ってくれたのは、先輩コンサルタントから学んだ仮説思考であった。仮説とは、情報収集の途中や分析作業以前にもつ「仮の答え」のことである。そして、仮説思考とは情報が少ない段階から、常に問題の全体像や結論を考える思考スタイル、あるいは習慣ともいうべきものである。
仮説思考を実践すると、不思議なことに、仕事がスムーズに進むようになり、同時に仕事の正確性も増した。情報を闇雲に集めると、仕事を遅くすることはあっても、正確性が増すことは少ないと気づいた。情報洪水に埋もれてしまっていたのである。
仮説思考は実践していくことで身についていくものである。最初は立てた仮説が的はずれなものになることも多いはずだ。しかし、人間というものはおもしろいもので、失敗するとそこから学べる。試行錯誤しながら進歩していくのである。失敗を積み重ねながら、仮説思考は進化していく。
情報が多ければ正しい意思決定ができるか? #
多くのビジネスパーソンは、情報は多ければ多いほど、よい意思決定、間違いのない意思決定ができると信じている。そうであるがゆえに、できるだけ多くの情報を集めてから物事の本質を見極め、さらに、そこで明らかになった問題に答えを出すために、また必要な情報を集める、という作業を繰り返す。
これで何が起こるかといえば、情報収集しているうちにどんどん時間がすぎていき、結局、肝心の意思決定は「エイヤーッ」でやらざるを得なくなったり、いざ物事を決める段階になって、必要なデータがそろっていないことに気づいたりする。要するに、あらゆる情報を網羅的に調べてから答えを出していくには、時間的にも資源的にも無理があるということである。
実は仕事ができる人は、人より答えを出すのが早いのである。
まだ十分な材料が集まっていない段階、あるいは分析が進んでいない段階で、自分なりの答えをもつ。こうした仮の答えを、われわれは仮説と呼ぶのだが、その仮説をもつ段階が早ければ早いほど、仕事はスムーズに進む。もう少しくわしくいえば、仕事の速い人は限られた情報をベースに、人より早くかつ正確に問題点を発見でき、かつ解決策につなげることのできる思考法を身につけているのである。
一方で、仕事が遅い人の特徴は、とにかくたくさんの情報を集めたがることだ。
現時点で「最も答えに近い」と思われる答え #
仮説とは「まだ証明はしていないが、最も答えに近いと思われる答え」である。
仮説というと「なじみ薄」と感じる人でも、普段の生活ではけっこう仮説を使って暮らしていることが多いのだ。たとえば、「雨が降った日には、みんな外に出かけるのがいやだから、レストランもすいているはずだ」という読みを立て、家族でレストランに出かけることがあるだろう。そして、実際にすいていれば、自分の仮説はあたっていたことになり、次からは「雨の日にはレストランがすいている」という前提で行動することになる。一方、相違して混んでいたのであれば、自分の仮説は答えの真逆だったのか、あるいは天候とレストランの混み具合は一切関係ないのかもしれない。これが仮説思考である。
問題解決のスピードが格段に速くなる #
仮説思考とは、物事を答えから考えることだ。ベストな解を最短で探す方法ともいえる。仕事の進め方で大事なことは答えから発想することだ。課題を分析して答えを出すのではなく、まず答えを出し、それを分析して証明するのである。
情報が多すぎると意思決定は遅くなる #
意思決定には何が必要か。そう尋ねると多くの人が「情報」と答える。
たしかにある程度の情報は必要なのだが、情報が多ければ多いほど、よい意思決定ができるというのは、間違った思い込みである。情報理論の世界では、不確実性が高いことを「エントロピーが大きい」と表現する。すなわち新しい情報が加わって不確実性が低くなれば、エントロピーは小さくなる。
得意先の接待に和食とフランス料理のどちらがふさわしいか悩んでいたとする。このときに、「先方の社長はフランス料理が好きだ」とか、「先方は翌日に和食の予定が入っていて、和食にすると二日続きになってしまう」といった情報が手に入ったとしよう。こうした情報があれば和食とフランス料理という二つの選択肢のうちのひとつを消すことができるので、意思決定が簡単になる。エントロピーが小さくなる例である。
ところが誰かに相談したところ、「いまどき寿司や天ぷらははやらない。私の知っているイタリア料理の店を紹介しよう」などといわれたら、エントロピーは大きくなり、意思決定はより困難になる。
つまり意思決定をするときには、いますでにある選択肢を狭めてくれる情報だけが役立つのだ。
一般に企業は、できるだけたくさんの情報を集めてから、意思決定しようとする傾向が強い。経営陣から社員まで大半が情報コレクターになっている。
考え得るさまざまな局面から調査・分析を行い、その結果をベースに結論を組み立てる人が多い。これを網羅思考と呼ぶ。この場合、最初の段階ではストーリーの全体像は見えない。まず、すでにわかっている情報から問題の一部分についての結論をつくり、それをベースにさらに新しい情報や分析を追加しながら新たな結論を導き出し、ストーリーを増やしていく。それを繰り返すうちにストーリーの全体像が見え、最後にようやくひとつのストーリーが完成し、問題の解決策が導き出される。
積み上げ型の思考なので、途中で一回でも結論を間違えた場合には、それをベースにした次のストーリーも間違えることになる。だからなるべく多くの証拠や情報を集め、できるだけ確実な結論をそのつど導き出したうえで、ストーリーを進めていかねばならない。
終盤になってようやく全体像が見えてくるので、ここが重点領域だから深く掘り下げようと思っても時間切れになったり、あるいは間違いに気がついたときには手遅れになっていたりする危険性も高い。
実験する前に論文を書く #
石坂公成先生(免疫学で有名)が恩師であるダン・キャンベル先生から「実験する前に論文を書け」といわれ驚いたそうだ。
あらゆる学問の研究では、まずは数多くの実験を試み、その結果を上下左右さまざまな方向から分析し、論文をまとめていく。これが一般的なやり方だ。
しかし、実はこれが、普通の人が陥りがちな罠でもある。一般的には、分析した結果をベースに結論を組み立てることが多いが、これでは答えもストーリーの全体像もなかなか見えてこない。
頭の中に、「きっと A という答えが出るはずだ」という仮説をはじめにもち、全体のストーリーを描いたうえで、その仮説が正しいかどうかを実験で検証するという方法で研究論文を書くのは一般的なアプローチとはまったく反対である。仮説思考はビジネスだけでなく研究でも有用である。
間違った仮説でも効用がある #
仮説思考では、まずはストーリー構成を考える。たとえば、「現状分析をするとこういう分析結果が得られるだろう。その中でもこの問題の真の原因はこれで、その結果としていくつかの戦略が考えられるが、最も効果的なのはこの戦略だ」ということを、十分な分析や証拠のない段階で作り上げる。
つまり、問題に対する解決策や戦略まで踏み込んで、全体のストーリーをつくってしまう。そうすると、ごく一部の証拠は揃っているけれども、大半は証拠がない状態になり、そこから証拠集めを開始することになる。その場合には、自分がつくったストーリー、つまり仮説を検証するために必要な証拠だけを集めればいいので、無駄な分析や情報収集の必要がなくなり、非常に効率がよくなる。
こういうと、「いろいろな可能性が考えられる段階で、大胆にひとつのストーリーをつくり上げたりしたら、重大なことを見逃し、間違ったストーリーをつくってしまうのではないか」と心配する人がいる。だが、それは杞憂だ。そのような場合には、ストーリーの正しさを証明するために、証拠集めを始めた段階で、仮説を肯定するような証拠がなかなか集まらない。そのため自分のつくったストーリーが間違いであることにすぐに気がつく。初期段階で間違いに気づくので、余裕をもって軌道修正することが可能だ。
三ヶ月のプロジェクトの答えを二週間で出す #
プロジェクトのスケジュールを組むときも、きちんと積み上げていって終了間際にゴールに到達するようなスケジュールはよいとはいえない。むしろ与えられた期間の半分くらいのところで、大まかに全体を結論づけてしまうことだ。それでその後に、部分を改善していく。
三ヶ月のプロジェクトを行う場合、私は、プロジェクトリーダーには二週間で答えを出すよう求める。この方法に慣れてくると、二週間で出した仮説と、三ヶ月じっくり考えてたどり着いた答えとで、大枠の部分に限って言えば大きな差はなくなる。残りの時間を、検証、チェック、顧客とのディスカッション、さらには顧客に完全に納得してもらえるようにするプロセスに充てられるからだ。
よい仮説の条件 #
仮説があっていたか、間違っていたかをよい・悪いとはいわない。たとえ間違っていても、それをベースに新たな仮説がつくられたり、選択肢のひとつが消去できれば、それは仕事が前に進んでいる。
それでは、よい仮説と悪い仮説は一体どこが違うのだろうか。
「営業成績が上がらない原因を調べ、対策を練る」というケースで考えてみよう。
- 仮説 ①:営業マンの効率が悪い
- 仮説 ②:できない営業マンが多い
- 仮説 ③:若手営業マンが十分教育を受けていない
これらの仮説は決して間違ってはいないが、よい仮説とはいえない。ではよい仮説とはどんなものか。たとえば次のような仮説である。
- 仮説 ④:営業マンがデスクワークに忙殺されて、取引先に出向く時間がない
- 仮説 ⑤:営業マン同士の情報交換が不十分で、できる営業マンのノウハウがシェアされていない
- 仮説 ⑥:営業所長がプレイングマネジャーのため、自分自身の営業活動に忙しく、若手の指導や同行セールスができていない
見比べてほしい。仮説の掘り下げ方が違う。後者は前者より、なぜ効率が悪いのかという原因にまで踏み込んでいるのがよい仮説だ。「なぜ、そうなのか?」というところまで、一段掘り下げて考えなければならない。そして、後者はいずれも具体的なアクションに結びつくことが容易だ。
仮説を立てるときには常に、「So What?」(「だから、何?」「だから、どうする?」)と考えるべきだ。
たとえば「体重が1年間で 10 キロも増えた」としよう。「だから、何?」と考えると、「やせないと身体に悪い」となる。そして「だから、どうする?」と考えれば、「運動をする」となり、さらに「だから、どうする?」と考えて「毎日ジョギングする」という具体策に落とし込める。「So What?」を繰り返すのが仮説を掘り下げるコツである。
分析の基本はクイック&ダーティー #
仮説を検証するために分析を行う。それでも精緻な分析は必ずしも必要ではない。仮説の検証のための分析のコツは、まず最小限の要素だけを急いで簡単にやるよう心がけることだ。急いでかつ粗いということで「クイック&ダーティ」と呼んでいる。
この分析の目的は、主に自分が納得するためだ。自分が立てた仮説が合っているかどうかを急いで検証するのである。
次に本格的な分析を行う。これは他人を説得するためであり、万が一の間違いを防ぐ目的である。ただし、これもいかに精緻華麗な分析を行うかではなく、意思決定に必要な判断を行えるものであるかという視点が最も重要である。仕事の意思決定に使う分析と、学術論文の分析とは違う。学術論文の分析には誰がやっても同じ結果が出るという正確性や精密性が要求されるが、仕事の意思決定に使う分析に、それらは求められない。有効数字はひと桁でも十分だ。
日頃から仮説思考力を鍛えるには #
力が高まっていくと、最初から相当筋のよい仮説を立てることができる。検証した結果誤っていたので振り出しに戻って仮説を立て直すということが少なくなる。言葉を言い換えれば、最初から進化した仮説を立てられるともいえる。それは無意識のうちに脳内で仮説検証を素早く行ってしまっていることを意味する。仮説を思いついた瞬間に、ああでもない、こうでもないとさまざまな視点から検証し、わずかな時間のうちに仮説を進化させてしまうのだ。経験を積んだコンサルタントは無意識のうちに脳内で仮説検証作業を行うので、最初に構築した仮説がかなり進化した仮説になっている。このレベルになるにはかなりの経験が必要だ。
では、どうしたらそのような仮説思考力の高い人になれるだろうか。
「So What?」(だから、どうなる?)を考える
たとえば、iPod が流行ったときに、この流行は他分野にどのような影響を与えるかを考えてみる。すると、ウォークマンの需要は減少するから、ソニーの株主は株を売ったほうがいいかもしれない。あるいは音楽がダウンロードで購入するかたちになると、CD の売上は下がるかもしれない。音楽の購入がより気軽になると、若者の消費は携帯電話から音楽に戻って来る可能性があり、すると NTT ドコモの株が下がるかもしれない。
なぜ?を繰り返す
たとえば、「なぜプロ野球は流行らないのか?」と思ったとき、これについて最低5回はなぜを繰り返して原因を深堀りしてみる。
知的に打たれ強くなる #
いくら確率が悪くても繰り返し仮説構築・検証を行う根気と学習能力があれば、仮説思考力は必ず高まる。BCG には「知的タフネス」という言葉がある。知的に打たれ強いという意味だ。いくら IQ(知的指数)が高くても、人にいろいろいわれると耐えきれなくて、ポロッと折れてしまう人がいる。それに比べると、IQ が多少低くても、何度でも何度でも挑戦して、そこから学び取れる人間のほうが成功している。