読書メモ。
トヨタで新入社員から叩き込まれる考え方のメソッド――「問題解決の8ステップ」がある。本書はこのメソッドをオフィスワーカー・ホワイトカラーにも活用できるビジネスツール&自己啓発スキルとして紹介しています。
「問題がない」が最大の問題である #
トヨタの元副社長であり、改善の鬼であった大野耐一は、こんな言葉を残しています。
「困らんやつほど、困ったやつはいない」
多くの会社では、「問題があるのに問題視していない」という状態が放置されています。実際には問題が発生しているのに、問題として認識できていない状態です。製造現場であれば、不具合やミスがあると、それが不良品となって目の前にあらわれます。だから、問題を発見しやすい。しかし、オフィスワークや営業の場合は、問題が明確になって目の前にあらわれにくいといえます。
そういう職場で働く人ほど、「問題をきちんと問題としてとらえる」スキルが必要になるのです。
長い間、同じ仕事を同じようなやり方でやっていると、問題があっても、それが当たり前になってしまいます。「問題のない仕事はない」「今の仕事のやり方がベストのやり方ではない」という意識を持つことが問題解決力を高める第一歩です。
問題とは「あるべき姿」と「現状」のギャップ #
トヨタでは、問題を次のように定義しています。
「あるべき姿」と「現状のギャップ」
「あるべき姿」とは、具体的には目標や基準、標準などのことをいいます。たとえば、製品の不良率3%が目標なのに、現状が5%とします。このズレが埋めなければならないギャップです。
「あるべき姿」がわからないと問題は見えてきません。「あるべき姿」を設定するのは、問題解決を行ううえで重要なプロセスです。
問題解決の3つの種類 #
トヨタの問題解決には、3つの種類があります。
- 発生型問題解決
- 設定型問題解決
- ビジョン指向型問題解決
いずれも「あるべき姿」と「現状」のギャップを解消することが目標となるのは変わりありませんが、後者になるほど高度なレベルの問題解決といえます。
- 発生型問題は、すでに存在する「あるべき姿」に達していないギャップを解消するもの。主として一般社員が取り組むレベルの問題解決。
- 例:不良品率の「あるべき姿」が3%に対して、「現状」が5%。そのギャップが問題である。
- 設定型問題は、現状では「あるべき姿」を満たしているが、より高い次元の「あるべき姿」を新たに設定し、意図的にギャップを作り出し、それを解消するもの。主として管理者が取り組むレベルの問題解決。
- 例:不良品率の「あるべき姿」が3%に対して、「現状」が3%。現状はあるべき姿を満たしているが、半年後には不良品率1%であることを「あるべき姿」設定する。そのギャップが問題である。
- ビジョン指向型問題は、中長期的視野をもって世界情勢など大きな視点から「あるべき姿」を設定し、「現状」とのギャップを解消するもの。主として経営層が取り組むレベルの問題解決。
- 補足:設定型問題の発展型といえるが、大きな視点から「背景」までとらえる点が設定型との大きな違い。「背景」とはトヨタの場合だと次のようなものを指す。<世界の経済情勢や環境問題はこれからどのような動きを見せるか?>
- 例:環境問題が深刻化していて、石油の枯渇が懸念される情勢の中、「人と地球にとって快適である」車が必要である。(このコンセプトのものに開発されたのが、量産ハイブリッド専用車であるプリウス)
問題のテーマが大きくなるだけで、問題解決のノウハウ自体は何も変わりません。したがって、発生型問題解決や設定型問題解決を職場で繰り返していくことによって、ビジョン指向型問題解決の力も自然と育まれていくのです。3つの問題解決はつながっているのです。「日々の問題解決が、将来のイノベーションにつながる」といっても過言ではありません。
問題解決につながる「8ステップ」 #
比較的小さくて、よく起きがちな問題であれば、これまでの経験や勘に頼って対策を立てて、根絶することも可能です。ありがちな小さい問題は原因や対策方法をすでにつかんでいるケースも多いからです。
しかし、大きな問題は、勘や経験で簡単に解決するとはかぎりません。そもそも何が本当の問題であるかが見えていないケースがほとんどです。
トヨタでは、いわゆる「大きな問題」を解決するときには、一連のステップを踏みます。それが「問題解決の8ステップ」です。
- 問題を明確にする
- 現状を把握する
- 目標を設定する
- 真因を考え抜く
- 対策計画を立てる
- 対策を実施する
- 効果を確認する
- 成果を定着させる
このステップにしたがって客観的なデータや数字などにもとづいて論理的に指向や分析をすることによって、勘や経験による思い込みを排除し、効率的に問題を解決することができます。
トヨタでは、「A3 の文化」というものがあって、とにかく1枚の A3 用紙に簡潔にまとめることを徹底されます。トヨタでは8つのステップを A3 用紙に書いてまとめ、問題解決のプロセスを「視える化」することが奨励されています。
ステップ1:問題を明確にする #
最初のステップは、解決すべき問題テーマを明確にすることです。
ステップ1と次のステップ2は非常に重要で、問題解決の大部分はここで決まると言っても過言ではありません。このステップを飛ばして、問題テーマありき、対策ありき、で問題解決に取り組んでしまうケースが少なくなりません。
「問題ありき」「対策ありき」ではうまくいかない
まず「問題が何であるか」という切り口から十分に分析し根拠を示して問題を明確化します。解決策を考えるのはそれからです。
発生している問題は1つだけとはかぎりません。発見した問題はすべて解決するのが原則です。しかし、一気にすべての問題の解決にとりかかるのは、時間も手間もかかるので、現実的ではありません。そこで、起きている絞り込む作業が必要になります。
問題を絞り込む
問題のテーマは1つに絞り、1つずつ順番に解決してくのが基本です。取り組むべき問題を絞る際は次の指標を参考に、これらを総合的に判断します。
- 重要度:問題が影響をおよぼす範囲と大きさ
- 緊急度:ただちに手を打たないと、どんな影響があるか
- 拡大傾向:このまま放置しておいたら、どれだけ問題が拡大するか
なお、ほかの指標を用いても構いません。たとえば重要度に関連する指標が3つ並んでもいいですし、実現可能性という指標を追加しても構いません。自分の職場や仕事が重視する項目によってカスタマイズするとよいでしょう。
人を責めず、しくみを責める
問題解決に取り組むと、人がミスをする、決められた手順を実施していない、という類の問題にぶつかることもあります。このとき、人を原因として責めるのではなく、そのような行動を発生されているしくみに焦点をあわせて問題解決に当たります。
「ボーリングで高スコアを上げる」にはどうする?
問題解決にアレルギーのある人は、私生活の分野で問題テーマを見つけてトレーニングしてもいいでしょう。「おいしいカレーライスをつくるには?」「恋人をつくるには?」といった自分が興味のあるテーマで問題解決を学ぶのも一法です。
ステップ2:現状を把握する #
問題を発見したら、問題を分解する必要があります。問題の多くは、さまざまな小さな問題が複雑に絡み合って生じているため、まだ大きくてあいまいな状態である可能性があります。問題が大きいままだと具体的にやるべきことが見えてきません。
そこで、大きな問題を分解し、自らが取り組むことができる具体的な問題に整理していきます。より小さな問題に分割し、優先的に手を付ける問題を特定するイメージです。つまり、具体的に解決すべき「攻撃対象」を決めるのです。
問題の現状をデータで把握し「層別」する
まずは問題の現状をデータであきらかにします。「なんとなく」問題なのではなく、事実を定量的に数字で把握しておかなければなりません。
現状をデータで把握したら、次にデータの「バラツキ」を見つけます。そのための方法が「層別」です。
たとえば、データを人別、年齢別、場所別、商品別などといった同じ共通点をもつグループに分類するのです。こうして分けることで、あるグループの特徴がはっきりと浮かび上がります。
層別には感度の良い切り口と悪い切り口があります。ポイントは、データのバラツキをつかむことです。
例えばクレーム品の発生割合を「発生部署別」に層別したところ、際立ってある部署に偏ってクレーム品が発生していることがわかれば、これは感度の良い切り口です。反対に「製品別」で層別したところ、どの製品でも似たような割合でクレーム品が発生しているようであれば、これではどこに問題があるかわからず、これは感度の悪い切り口です。
層別の切り口に悩んだ場合、まずは4つの「W」、すなわち、「WHAT」「WHERE」「WHEN」「WHO」の切り口で分けてみましょう。良い感度の切り口になかなかたどり着けないこともありますが、いろいろと試してみることが大事です。
「現地現物」で問題点を特定する
トヨタで重要視されている考え方で、「現場を見ることで真実が見える」とされています。問題の現状をあきらかにし、バラツキを見つけていく段階では、現場に行って自分の目で確認する、自分の耳で話を聞く、ことを心がけましょう。
オフィスワークの職場の問題に取り組む場合、工場と比べて定量的なデータをとりにくいケースが多いでしょう。目で見て、耳で聞いて問題点をみつけるのは簡単ではありません。しかし、プロセスがない仕事はありません。なにかしらのアウトプットを生む以上、そこに至るプロセスが必ずあります。
まずはどういう仕事をしているかをフローに沿って詳細に書き出し、整理することによって、問題の発生箇所が見えてくることがあります。「企画プレゼンの採用率が低い」という問題テーマだとしたら、そのプロセスを書き出します。<企画テーマを決める → 情報収集する → 市場分析する → 企画書をまとめる → お客様にプレゼンする>このように分解していくと、どこに問題がありそうなのか見えてくることがあります。
データがない職場はデータをとることからはじめる
「現状を把握する」ためにはデータをもとに考えることが重要になります。データが無ければ層別をして問題のありかを特定することもできません。
ステップ3:目標を設定する #
問題点が明確になったら、取り組む問題に対して「達成目標」を決めます。
ステップ2「現状を把握する」で「あるべき姿」を達成するうえでの大きな問題点をより具体的に細分化したことを思い出してください。ですから、個々で設定する目標は、その細分化した具体的な問題を取り除くための目標でなければなりません。
たとえば、「国内売上の前年対比 20% アップ」というのが「あるべき姿」であれば、「国内売上の前年対比 20% アップ」のままでは目標になりません。細分化した問題にしたがって「東北地方の売上の前年対比 40% アップ」や「20 代顧客の売上の前年対比 25% アップ」が目標となります。この目標を達成することで、結果的に「国内売上の前年対比 13% アップ」に貢献するといった具合です。
目標は数値で示す
達成目標を決める際は、次の3要素を設定します。
- 何を
- いつまでに
- どうする
たとえば、目標を「20 代顧客の売上の前年対比 25% アップ」とする場合、具体的には次のようになります。
- 何を:20 代顧客の売上を
- いつまでに:12 月末までに
- どうする:前年対比 25% アップする
ポイントは数値であらわすことです。定量的に測れないあいまいな目標では、達成基準が不明確です。このとき定性的な目標である場合には、「KPI」を活用して定量的に把握できるようにします。たとえば、「ブランドイメージを高める」という目標の場合、その KPI として「リピート率」「広告出稿金額」で測るなどです。
また「どうする」の部分で裏付けを明確にする必要があります。目標の数値を決めるときは、成り行きで決めるようなことがあってはいけません。たとえば、会社の目標が「クレーム品の発生目標が月2件以下」であるのに、現状や環境から考えて4件以下が現実的な場合は、上司などと話し合いの場を持って決めることです。実現不可能な目標を設定しても、ムダに挫折感を味わうだけです。あまりに実現性のない目標は考えものである一方、しかし、少し頑張れば達成できそうな位置にストレッチした目標を設定するのは人や組織を育てるよい目標と言えます。
ステップ4:真因を考え抜く #
ステップ2「現状を把握する」であきらかになった解決すべき課題を発生されている原因を究明し、真の要因(=真因)を突き止めます。その真因を取り除くことによって、目標を達成できます。
問題が大きくなればなるほど、その原因を調べていくと、たくさんの「要因」が挙がってきます。しかし、目の前の要因に安易に飛びついて、それらを解決したとしても、それが真因でなければ、また同じ問題に直面することになります。大切なことは、問題を発生させた真因を追求し、抜本的な解決を図ることなのです。
なぜなぜ分析
トヨタでは真因に迫るために、「なぜ」を繰り返して要因を絞り込んでいきます。トヨタではなぜを最低5回繰り返すことが奨励されます。しつこいほど「なぜ」を繰り返すことで真因に迫れるようになります。
当然、なんでも5回めの「なぜ」で真因が見えるわけではありません。2,3回でわかることもあれば、10 回繰り返してようやく真因にたどり着く場合もあります。大切なのは、途中で「真因だ」と早合点せずに、真因を最後まで絞り込んでいくことです。
真因かどうかを確認する
真因候補に目星をつけたら、推定要因となりえるか、3つのポイントでチャックします。
1つめは、「その要因に手を打てば、問題が解決され、同じ成果を上げ続けられるか」です。
2つめは、「もう一度、『なぜ』を繰り返すと、問題が拡散しないか」です。
3つめは、「因果関係が逆も成り立つか」です。真因を探すときは「なぜ」を唱えて深堀りしていきますが、今度は反対側から「だから〜だ」でさかのぼっていくことができるか確認します。無理なくさかのぼることができれば、逆の因果関係が成り立つことになります。
「これが真因だ」という目星がついたら、現場を見て本当に真因であるかどうかを確認する必要があります。現場の状況やデータと一致することによって、はじめて「真因」と判断できるのです。
ステップ5:対策計画を立てる #
真因を特定したら「どうすれば真因をなくすことができるか」を徹底的に考え抜いていきます。ここでのポイントは、真因ごとにできるだけたくさんの対策案を洗い出すことです。ちなみに真因は1つとはかぎりません。複数の真因が特定されたら、それぞれの真因ごとに対策案を立てることになります。
考えつくかぎりの対策案を出したら、それぞれの案を評価して、優先順位をつけていきます。その際、評価の観点には次のようなものがあります。
- 効果:真因をなくすことができるか。目標を達成することができるか。
- 実現可能性:実際に無理なく対策を実行できるか。
- コスト・工数:どれほどの費用や時間がかかるか。
- リスク:対策を実行する段階でリスクはあるか。
「対策を実行すると、何が起きるのか」をリアルに想像することが大切です。例えばその対策が真因を解決するためにどれだけ有効であっても、従業員またはお客様の安全に損害を与えるようであれば対策案としては適切ではありません。また対策の効用以上に副作用として他工程に損害を与えるようであれば、トータルでみると意味のない対策と言えます。目の前の問題を解決することばかりに意識が向きがちですが、その影響を考えることも大切です。
すべての真因を解決しなければ、本当の意味で問題解決にはなりませんが、しかし、すべてを同時に取り組むことがむずかしい場合がほとんどです。現実的には、どの真因の対策から手を付けるか、優先順位を決める必要があります。優先順位をつける際は、品質、コスト、期限、といった切り口をカスタマイズして評価するといいでしょう。
ステップ6,7:対策を実施する、効果を確認する #
対策案が決まったら実施の段階に移ります。対策を実行したら、対策の評価をする必要があります。
ここで対策の効果がなければ、その対策は正解ではなかったということを意味します。その場合は、真因の捉え方が間違っている可能性があるため、再びステップ4「真因を考え抜く」に戻って真因を再検討します。成果は、成功の成果だけではありません。失敗という結果を得ることも成果です。
対策を評価する場合は、あわせて他の面で支障がでていないか、確認しておく必要があります。
ステップ8:成果を定着させる #
トヨタでは、成功の成果を一過性のもので終わらせることはしません。「しくみ」として定着させることが習慣的に行われています。これを「標準化」といいます。簡単にいえば、「いつ、誰がやっても、同じようにできる」ようなしくみをつくることです。
トヨタには、作業の標準を示した「作業要領書」のたぐいがたくさん存在し、新人が入ってきても、他の人と同じように作業ができるようになっています。
さらに、成果を他部署に拡大していくことを、トヨタでは「横展」といいます。その問題解決のプロセスを他の部署にもオープンにし、全社的に同じプロセスを共有するのです。
「横展」までできたら、それが維持できているか、定期的に現場を見て確認することも大切です。標準が他部署で当たり前のように実施されて、はじめて会社は変わっていくのです。
感想 #
トヨタの問題解決8ステップを PDCA サイクルに当てはめると次の通り。要するに P に最大限の力を注いで D の精度を最大限まで高め、「闇夜に鉄砲」を避けようとしているのだと理解できる。
- 問題を明確にする = P
- 現状を把握する = P
- 目標を設定する = P
- 真因を考え抜く = P
- 対策計画を立てる = P
- 対策を実施する = D
- 効果を確認する = C
- 成果を定着させる = A