読書メモ:人を選ぶ技術

読書メモ:人を選ぶ技術

読書メモ。

「自分には人を見る目がない」と嘆くなかれ。

「人を見る目がある人」「人を見る目がない人」

この両者を分かつものは何か?

その答えは・・・

「人を見るための方法論」を持ちえているどうか。ただ、それだけです。

しかしながら、世の中には「人を見るメソッド」が存在しません。

長年の経験、勘、データの蓄積から織りなす得も言われぬ「何か」が「人を見る目」をもたらす。つまり、言語化も体系化もなされていないのが「人を見る」ための技術でした。

そんな常識を打破するのが本書です。


第1章:「人を見る目」を分解する #

「人を見る目」は何に役立つのか? #

人を見る目が、何をあぶり出してくれるのかを考えてみよう。大きくは二つだ。まずは、ビジネスや人生のパートナー選びにおいて、相手の能力について推し測る「人としての優劣さ」の見極めのため。平たく言い換えると、職場などで「できる奴・できない奴」と表現されるようなものだ。もう一つは、相手が人にもたらす影響について推し測る「人としての害の有無」お見極めのため。こちらは言い換えると、「いい奴・いやな奴」だ。この二軸である。

縦軸を「人としての優劣さ」とし、「優秀」か「平凡」かに分け、横軸を「人としての害の有無」とし「善」か「悪」かに分類すると、4象限が生まれ、人を分類することが可能となる。

  1. 「優秀」で「善」:誰もが一番欲しい。時々隠れた逸材がおり、見逃さないことが肝要。人を見る目、人を選ぶ技術の習得の意義とはまさに、この象限に入るべき人材を見逃さず、惹きつけ、仲間にすることである。
  2. 「平凡」で「善」:人畜無害。あまり論点なし。ここに属している人は、結論として無害であるから、特に見極める必要がない。エネルギーをかけず、期待しすぎず、ご機嫌にやっていればオッケーだ。
  3. 「平凡」で「悪」:もちろん避けたいが、意外とわかりやすいので怪我はしない。こういうタイプは有害ではあるが、平凡ゆえにその有害さを隠す狡猾さがない。むしろ発露しようとするので、わかりやすいし、避けやすい。
  4. 「優秀」で「悪」:棘のあるバラ。対応が難しく落とし穴になりやすい。もっとも厄介なのがこのタイプだ。優秀であるがゆえ、表面的には評判が良かったりする。しかし、静かにトラブルの芽を育ててしまいがちで、問題が表面化した時は手痛い損害を被る場合がある

『「優秀」で「善」』と「優秀」で「悪」の2種類の人たちを見極めるために、「人を見る目」が役に立つのである。

第2章:人を「階層」で捉える #

人は「4つの階層」で構成されている #

  • 地上1階:経験・知識・スキル
  • 地下1階:コンピテンシー
  • 地下2階:ポテンシャル
  • 地下3階:ソース・オブ・エナジー

人を見るにあたっては、人間を建築物のように、階層として捉えてみてほしい。イメージは地下深くにつくられた建物だ。1階が表に出ていて、地下1階、2階、3階と深く掘り下がっていく。ピラミッドを逆さにしたイメージだ。

浅いほう、つまり地上に出ているものほど他人から見えやすく、わかりやすく、そして変わりやすい。一方、地下に潜れば潜るほど見えにくく、わかりにくく、変わりにくい。

このフレームワークを覚え、試行錯誤を経られれば、人間の内面が設計図のように目の前に浮かび上がるようになる。

地上1階:経験・知識・スキル #

これらは、相対的には表面的なものであり、履歴書から簡単に読み解くことができる。誰が見ても、誰が聞き出しても、比較的見間違わないものであり、ファクトとして伝えられやすい。間違えにくくて、わかりやすいものなので、人を見る初心者でも自信を持って是非を判断しやすい。

それもあって、残念ながらほとんどの面接は、この階層を触るだけで終わってしまっている。履歴書に羅列されている経験、知識、スキルと、自社が求めるものとのマッチングを確認して、あとはちょこっと人柄をチェック。建物の1階だけを見て、全体を見た気になってしまっているのだ。

地下1階:コンピテンシー #

コンピテンシーを見抜くと、相手の「将来の行動」を予測できる。

コンピテンシーとは人事業界などでよう使われる概念・手法で、「好業績者の行動特性」と約されている。1980 年代後半にアメリカの人材活用の場で使われるようになった。これは 1970 年代にハーバード大学心理学科のマクレランド教授が、国務省のオーダーで、学歴や資格、スキル、知能レベルなど(地上1階部分)が同等の外交官に、業績の差がなぜ出るのかを研究したことがきっかけとして生まれたものだ。

コンピテンシーとは、その人が「どんなシチュエーションで、どういうアクションを取りがちか」という、固有の行動のパターンだと理解していただきたい。

相手のコンピテンシーがわかると何がいいかというと、相手の「将来の行動を予測」するのに使えるということだ。人間は似たようなシチュエーションで同じ行動を繰り返しがちであるという研究結果がその下敷きとなっている。

ビジネスの現場で人を見極める際には、大体5〜7個のコンピテンシーを取り扱う。最初の3つがマネージャークラス以上のビジネスリーダーを選ぶ場合によく使われる代表的なものだ。もし時間や余裕がない際には、この3つだけを意識して見ればよいだろう。

  1. 成果志向:何かのノルマを課せられたときに、成果志向が低レベルの人は「難しいとやめてしまう」、中レベルは「絶対にやり遂げ、目標はなんとか達成しようとする」、高レベルは「目標は越えることが当たり前で、そのための動きが早期から逆算でき、目標超えの結果を繰り返してナンボと考える」
  2. 戦略志向:低レベル「自部門の戦略を立てることはできる」、中レベル「自社全体の戦略を策定できる」、高レベル「業界や産業全体の戦略を立てられる」。ビジョン達成のためにどんな方法をとるのか?競争上の差別化要因をどうやって作っていくのか?このような具体的な中身の高度さ、緻密さを探っていくことで測定できる。
  3. 変革志向:「現状打破のために何をすべきか?」「変化の方向性はどのようなものであるべきか?」「どうすれば、人々が熱狂して変革に取り組めるか?」
  4. 顧客志向
  5. 市場洞察
  6. 多様性対応
  7. 協働
  8. 人材育成
  9. チーム運営

相手のコンピテンシーを見抜くために

コンピテンシーを見抜くための必須技術。それは「エピソード・ベースのインタビュー」だ。相手の「意見」ではなく「取った行動=ファクト」にフォーカスする。

例えば、入社志望者が前職の自部門で問題が発生し、お客様と関係がこじれてしまった経験があったとする。その場合、どのようにして問題を解決したのか、リアルなエピソードを聞いていくのだ。

「そのとき、あなたはどのようにして問題を解決しましたか?」

もし出てきたエピソードが「仲間と協働して人間関係で問題解決した」なら、「協働」「チーム」関係のコンピテンシーにつながりそうだなと認識して深堀りしていく。「計画を見直して根本的に再発を防いだ」ということなら、「戦略」「変革」あたりのコンピテンシーが高いかなとあたりをつけ、評価していくのである。

プライベートの婚活でも、これは活用できる。お相手に対して「あなたの自慢話を聞いてみたい、あとは苦労話もぜひ知りたい」と質問してみてはどうだろうか。出てきたエピソードを、そのまま聞き流すのではもったいない。例えば、苦労話として、大学生の頃、「サークルの部長とあわなかったんだよ」という話があったとする。ここで相手の「意見」を聞くだけでは、実は意味がない。

そうではなく、具体的に、「あなたはそのとき、何をしたの?」と、相手が取った「行動」にフォーカスして深堀りすることで初めて、有益な情報=コンピテンシーが見えてくるのだ。

それで初めて、今後、自分と付き合った場面、似たような場面でこの人はどんな行動を取りがちなのかという、未来の2人の姿を想像することができるのだ。意見は無意味、行動が全てなのだ。

コンピテンシーを見極めようとする際、重要な注意点がある。それは、先にエピソードありき。それをコンピテンシーに仕分けるということだ。逆のやり方をすると、なからず失敗する。

「あなたは戦略的ですか?」「戦略思考を示すエピソードを話してください」このように尋ねれば、相手は必ずそれに合わせてそれなりの話をしてくる。

エピソードからコンピテンシーを評価するための、より具体的なアプローチは、まず相手が答えた「自慢話」のうち、知りたいコンピテンシーに関わる物が出てきた際に、話を少し遮って、次のような質問を重ねて深堀りしていくことである。

「ちょっとそこ、もう少し詳しく教えていただけますか?」「具体的にはどうやったのですか?」

カット・インというテクニックだが、これを失礼だと考える人は意外と多い。しかし、タイミングを逃すと相手の思考が乱れ、ひいては、核心に迫るチャンスを失う。失礼を恐れずにどんどん割り込んだほうが絶対に良いインタビューになる。

「あたなは、そこで何をしたのですか?」「あなたが、その成功のために工夫したことはなんですか?」と、バンバン切り込んでいって、主体的な関与の姿をあぶりだすべきである。ただし、尋問風になってはいけない。あくまでも好奇心のおもむくままに、盛り上がりながら差し込むべきだ。

人の能力を「コンピテンシー」として、しっかりと見極める技が身につくと、スポーツ選手、料理人、芸術家、芸人など、ネクタイを締めない職業においても、なぜその方がプロフェッショナルとして成功したのか、立体的にわかってくるようになる。

地下2階:ポテンシャル #

人は、「変わりやすい部分」と、「変わりにくい部分」があると先に述べた。「地上1階:経験・知識・スキル」「地下1階:コンピテンシー」は、どちらかというと、物心がついてから、学習と体験を通じて形作られるもので、また、変化していくものである。

いわばコップに注がれる水だ。

では、コップそのものについてはどうだろうか?それが地下2階の「器=ポテンシャル」である。地上1階や地下1階で注がれるものは、その器がある上で成立しているものだと言っていい。

この器がどれだけの容積をもっているのか。その中に注がれたものが、どのくらいの量か。この二つがわかれば、さらに加えられる量がわかる。これを世の中では「伸びしろ」と呼ぶ。

エゴンゼンダー(«https://www.egonzehnder.com/>)>が、ハーバード大学などとともに、長年科学的にリサーチし、2014 年に初めて世界に公表したコンセプト。それが「ポテンシャル・モデル」だ。

それまで HR(人事)業界においては過去(トラックレコードなど)ばかりを面接で見ていたが、未来(伸びしろ)を読むべきだという、観点の転換点になった。

人の器の大きさ、伸びしろは4つの因子で測ることができると、言い切っている。大量のサンプルを分析した、リサーチの結果だ。

  1. 好奇心(Curiosity):「吸収・更新」新しい経験、知識、率直なフィードバックを求めるエネルギーの強さと、学習と変化への開放性がこれにあたる。これが他の3つの因子のベースとなる優勢因子である。
  2. 洞察力(Insight):「集める・繋げる」新しい可能性を示唆する情報を収集し、理解するエネルギーの強さを示す。
  3. 共鳴力(Engagement):「結ぶ・響く」感情と論理を使って、自信の想いや説得力のあるビジョンを伝え、人々とつながろうとするエネルギーの強さを示す。
  4. 胆力(Determination):「腹決め・律する」大きなチャレンジがある課題を好み、困難な目標に向かって戦うことに強いエネルギーを得て、逆境から素早く立ち直る力を持つことを指す。

注意してもらいたいのは、見るべきは能力ではなくて「エネルギー」だということ。対話から情報を得ながら「この人からはこのエネルギーが強いな」と「感じとって」いく作業となる。「感じる」などと書くとオカルトっぽくなるが、体感的には言葉のインフォメーションだけでなく、その人の顔つき、表情、体の動き、声のトーンなどからも情報を得る作業と言っていい。

ここで言う「エネルギー」とは、本人からすると無意識で、時に無自覚、自然と湧き起こる「熱量」のようなものだという理解がポイントとなる。四六時中、それらが燃えているのでは疲れてしまうだろう。しかし、スイッチが入ったらグワーッと盛り上がってくる。そうした種類のエネルギーという理解でよい。

このレベルの階層になると正しく、客観的に評価することは相当ハードルが高くなる。

好奇心

好奇心は「吸収」と「更新」のサブセット(部分集合)からなる。

  • 吸収:ありとあらゆる森羅万象を知りたがるさま。例えば、なんで電線に鳩がとまっても感電死しないのか、などという子どものような疑問をおとなになっても持っている人がいる。「とにかく知りたい」「何でも吸収したい」という方向の好奇心だ。
  • 更新:古い知識をアップデート、つまりいったん思い切って解放して「更新」する方向の好奇心だ。古い考えをさっと捨てられるかどうかだ。

洞察力

洞察力は「集める」と「繋げる」のサブセットからなる。

  • 集める:さまざまな情報を集め、整理し、意味を理解することにワクワクするタイプか。
  • 繋げる:情報に関連性を見出すことにワクワクするタイプか。

「繋げる」とは例えば、「鉛筆とワインの共通項は何?」という質問に対して考えることにポジティブなエネルギーを感じる人はこのサブセットが強いと評価できる。

ちなみに、学校教育における秀才は、「集める」は強いが「繋げる」は苦手というタイプが多い。日本の受験システムがそうなっているからとも言えるかもしれない。

トップクラスの学校からしか採用しない戦略コンサルティング業界でさえ、その傾向はある。昨今、規模化が進む戦略系ファームでも、量産型と呼ばれるコンサルタントが年々増えているが、量産型と精鋭たちとの違いを分かつのは、この洞察力における「繋げる」エネルギーだろう。

このように、洞察力のエネルギーは、いわゆる地頭の良さと近似する概念と言えるだろう。

共鳴力

共鳴力は「結ぶ」と「響く」のサブセットからなる。

  • 結ぶ:相手とのつながりポイントを無意識に探し、その結びつきボタンをしっかり押さえながら、自らのビジョンやアイデアを伝える。そこから新たな物語が展開されたりすることに、強い喜びを感じたりする。そのようなタイプのエネルギーだ。この傾向が強い人は、頼みもしないのに、結びつきポイントがありそうな第三者をうれしそうに紹介してくることが多い。
  • 響く:エネルギーの交換を無意識に求め、それがわずかな時間の間に、どんどん高まっていくようなタイプのエネルギーを指す。この傾向が強い人の特徴は、よく笑うことだ。それも、他人の話に笑うのではなく、自分で話しながらキャハハと笑うタイプの笑いである。その笑いは、目の前の人間との共振を無意識に求める欲求からくる、ある種の自家発電的な行為なのだろう。

胆力

胆力は「腹決め」と「律する」のサブセットからなる。

  • 腹決め:迷いがありながらも、それらをすっぱり断ち切って、覚悟を決める。腹をくくると言い換えてもいい。重要なポイントは、その決断ができた・できなかったによって評価するのではないということだ。腹決めをしなければいけないその苦しい瞬間にもどこか楽しさを感じる人が世の中に一定数いるが、彼ら・彼女らがこの腹決めが高めなタイプということになる。この人たちにとって逆境は大好物。成功しているスタートアップの経営者などはこの典型が多い。
  • 律する:きわめて大きな物事を成し遂げようとしているのに、すごく謙虚という稀有な人がこの世には存在している。「自分なら絶対にできる」と信じている半面、「自分はまだまだ。水準を満たしていない。自分自身を厳しく律しないといけない」と考え、その壁を超えていくチャレンジにエネルギーの高まりを感じる人達だ。この人たちは、「信じているが、信じていない」というある種のパラドックス状態を、深層心理としては楽しんでいるのである。

時々、「胆力は後天的に鍛えられるのでは?」と聞かれる。確かに部活で走り込みをしたり、天災による過酷な経験をしたりすると、肝が据わるところはあるかもしれない。だが、それはどちらかというと地下1階のコンピテンシーの成果志向や変革志向などの行動特性の領域とみなすべきであって、確かにそれは後天的に鍛えることができる。ひるがえって、ここで述べた地下2階のポテンシャルの胆力というのは、そうした危機的状況に陥れば陥るほどワクワクするとか、むしろそういう局面を求めてしまうとか、自身でもコントロール不能なエネルギーの話だとご理解いただきたい。

エネルギーレベルを統合して「器」を評価する

このように、好奇心、洞察力、共鳴力、胆力の4モデルごとに相手を掘り下げて、全体のエネルギーレベルを統合し評価すると、器の大きさが測れる。

その人の「ポテンシャル=伸びしろ」が見えていくるのである。

繰り返しになるが、上層階部分は、化粧も後づけも可能である。

たとえ知識や経験、スキルがなく、また、変革志向や成果志向、戦略志向などの発芽がまだ弱くてお、そこはかとなく感じさせる大きなポテンシャルや、その人を強く突き動かす何かの存在をその人に感じたならば、個人としては積極的に付き合うべきだし、組織としては積極的に採用すべきなのだ。

「なぜわざわざ、ポテンシャルのような曖昧なものを見る必要があるのか?」「明らかに発言した能力であるコンピテンシーで事足りるのではないか?」という意見がある。言うまでもないが、今の時代は非常に移り変わりがや早い。不確実性は増すばかり。過去を評価した指標だけでは、不足となっているのだ。今年、あなたの仕事の役割に求められている能力が、2〜3年後には不要となり、新しい能力が求められることがないとは言えない。

いくつになっても、自分自身を変革でき、根本的な考え方を変えられ、力強く成長することができるポテンシャルを持っている人こそが、誰からも、どこからも、望まれる人材である。

地下3階:ソース・オブ・エナジー #

これまで述べてきた地下2階までが、著者がエゴンゼンダーで学んだことを、わかりやすくアレンジを加えたものだ。

大企業のトップマネジメントを評価するうえでは、ここまでで十分だったと思う。しかし、エゴンゼンダーを卒業し、起業家支援をするようになったいま、優れた起業家の特徴を理解するうえで、地下2階までの理論では説明がうまくいかないケースが体感的に増えてきたのだ。

起業家たちを起業家たらしめるものとは何か。それが著者が提唱する「ソース・オブ・エナジー(エネルギーの源泉)」である。言い換えるとそれは、その人の精神性だ。

「ソース・オブ・エナジー」とは、その人の頑張りを生む力であり、それは「使命感」と「劣等感」だと考える。

例えば、医学の道を志す人の動機として散見されるのが「子どもの頃に家族を不治の病で失ったので、自分がいつかその病気を治したい」という使命感だ。あるいは、「若い頃に旅した発展途上国の子どもたちを何とかしてあげたい」と使命感に燃える実業家の話も聞く。

このように使命感は、ちょっとやそっとのことでは揺るがない強固な精神性を、その人物に授ける働きがある。

劣等感も同じである。通常、劣等感というものは、ネガティブな意味で使われているだろう。しかし、人の成長という観点において、劣等感も使命感と同じく、その人の人生の発展にプラスに働く、ポジティブなものである。

使命感と劣等感がともに弱い場合

もしも、これらの負のパワーが弱い場合には、どんなことが起きるのか。別に悪いことがあるわけではない。ただ、世の中を動かすほど、突き抜けた人生になることはきっとないだろうというだけだ。それは全く恥じるべきことではなく、むしろ幸せに近いとも言えるのではないか。

例えば、時々人としてのポテンシャルがすごく高いのに、なぜか物事を自分で成し遂げようとはせず、ナンバーツー的な立場に甘んじていたり、厭世的な暮らしを送っている人がいたりする。こういう人は大体、使命感、劣等感、どちらとも低めなことが多い。

第3章:相手の本質を見抜く実践メソッド #

自然体を引き出す #

  • まず自らの心を整える。人を見るというのは非常に繊細で、集中力を要する行為だ。手軽な方法として、深呼吸をして、できるだけ心を整えて挑みたい。
  • 相手とは正対しない。例えば1対1の場合、椅子を真正面に向き合わせるのは避けたい。緊張感を出してしまい自然体な会話を阻害してしまう。こぶしひとつ分でよいから椅子を微妙に斜めにずらすこと。さらに面談がはじまって少し打ち解ければ、体を斜めにして正対しないようにする。これだけでも心理的に楽になり、和らいだ雰囲気になる。
  • 最大でも2対1が限度。面接は基本的にはこちらも相手も1人が基本だ。インタビューする側が複数人になる場合であっても、せいぜい2人までが限度である。3人以上だと圧迫面接になってしまう。厳密にいえば2対1でも十分圧迫している。
  • とにかく「良い時間」にする。相手を尊重しつつ、興味津々な姿勢で臨んで、面談を楽しむことが大事だ。
  • アイスブレイクはやはり必要。日本ではアイスブレイクの戦略的意義があまり認知されておらず、知っていても省略する人が多いのだが、最初の1分間のショート・トークをムダにしないだけで面接の質(=情報収集の量)は格段に上がる。気の利いた小話をする必要はない。アイスブレイクは、お互いにリラックスするためにある。「もうすぐ週末ですね」「今日はいい天気ですね」など、お互いポジティブになるような一言を発するのもいい。昔からあるこうした挨拶の決まり文句は、私たち人類が長年のコミュニケーションで手に入れた究極のリラックス方法なのかもしれない。
  • 感謝の気持ちを伝える。「今日は来ていただきありがとうございます」と言うだけだ。営業職の人はこれを割と自然にできる。しかし内勤の人はなかなかできていない人もいるので意識しよう。
  • 「タメ語風言葉」を効果的に使う。敬語は相手との距離を作る。失礼にならない程度に、タメ語風の言葉をまぶして使うと、相手との距離を縮めることができる。
  • パソコンでメモを取るのは避けたい。ノートパソコンを目の前に出して面接をするケースが最近増えている。ノートパソコンの画面を見ながらキーボードをカタカタやるのは避けたほうが良いだろう。

あぶりだす #

会社が求める人物をあぶりだすために、質問の観点を設定している会社は多い。たいていは協調性や団結心、会社への共感、企業文化とのフィットなどについて問うものだ。

それ自体は悪く会いのだが、質問の仕方がまずいケースが多い。特に質問ポイントを「そのまま」質問してしまっているケースが少なくない。例えば、協調性をあぶりだしたいときに、「あなたはチームプレイができますか?」と質問する。そんな質問をされたら、相手はすぐ「この会社は自分がチームプレーヤーかどうかを知りたいんだな」と感づくはずだ。あとは「私はチームプレーが得意で、大学時代はラグビー部でした」と、質問に合わせた答えをすればいい。他にも、ストレス耐性を図りたいときに、「あなたはストレスをどう解消していますか?」と質問して、「サウナです」と答えるやりとりに、どんな意味があるのだろうか。これでは、〈こんな話を振られたら、あなたはどう答えられますか選手権〉でしかない。それでは面接の意味がない。

大事なのは「エピソードを聞く」ということだ。

最初は漠然とした聞き方でいい。

例えば、「今までの仕事や人生における自分の行動で、もっとも誇りに思うことは何ですか?」と聞く。それに対して、相手は「これこれこうです」と答えたとする。そこですかさず、「では、それについてのエピソードを話していただけますか?」と聞くのだ。このやり方のメリットは何かというと、こちらの欲しい答えを「意図的に打ち返す」ことができないということだ。

仮に「チームとうまく協力して、一つのプロジェクトを成功させたこと」をもっとも誇れるエピソードとして挙げたとしよう。それはチームワークについて聞かれたから答えたのではなく、その人自らが選んだ答えなのだから、信憑性がある。きっとチームで働くことを大事にしている。別の人は、「ものすごくぐちゃぐちゃだった物流システムを、統合整理して、毎日問題なく配送することができるようになりました」と答えたとする。この人はあるべき姿、正しいプロセス、しっかり業務を進めるということについて重視している人なのだということが分かる。あるいは、「自分のノルマは 150 万円だったんですけど、それを月の半ばぐらいで超えたので、自ら上方修正して 180 万円にして、それを4ヶ月連続で達成したことがあります」という話をした人は、目標達成意識が強く、それを仕事の価値観として捉えていることが容易に想像できる。

つまり、エピソードで語られている内容の重心の置き方を分析することで、まずその人が大事にしている価値観のコアを知ることができるのだ。その上で、足りていない質問ポイントを、エピソード・ベースで投げかけていけばいいのだ。

例えば、「今の話ではノルマの目標設定についてお話しいただきましたが、一緒にやっていたチームのことについてもお話しいただけますか?」といった具合だ。

別にチームワークについて聞いているわけではない。漠然とチームについて聞いているだけだ。そこでどんなエピソードが出てくるかを待つ。

「チームといえどもライバルなので、助け合ったことがないですね」とうのなら一匹狼的な人だろうし、「みんなで切磋琢磨して目標を達成しました」という話が出てきたら、その人は協調性を大事にしているのだ。そこに忖度は一切ないはずである。

このように、エピソードをベースにしながら、多面的にその人の行動特性をあぶり出していき、最終的に会社が用意している項目と照らし合わせる。これがベストなやり方である。

ただし、ここで注意したいことがある。それは、単にエピソードを聞いただけでは、表面的な話で終わる可能性があるということだ。

例えば、「それまでやっていたやり方だと、1日に 50 個しか送れなかったんですが、私の考えたやり方に変えたら、1日に 120 個送れるようになりました」という元流通関係者のエピソードに対して、「なるほど、そうですか」で終わってしまったら、判断材料としては全く足りない。

  • 「その 50 から 120 にするときって、どれだけ大変だったんですか?」
  • 「それに対して反対する人たちはいましたか?」
  • 「その結果、会社の新しい事業につながったりしましたか?」

このように、気になるポイントがあったら、深堀りしていくことが大事である。これを「ディープ・ダイブ」という。

  • 「そのエピソード面白いですね。で、どうなったんですか?」
  • 「それはあなたが考えたんですか?」
  • 「それをやろうと思ったきっかけは何だったんですか?」

ズケズケと踏み込むことに躊躇する人もいるだろうが、ベースのエピソードは基本的に「自慢話」のはずなので、そこにディープ・ダイブされても、あまり人は嫌な気分にはならない。

エピソードから入る面接の本質的なメリットは、「事実=ファクト」のみを、純粋に抽出することができることにある。

例えばチームマネジメントについて聞きたい場合、「あなたの理想のチームマネジメントスタイルは?」と聞いてしまうと、「ひとりひとりをエンパワーして、みんなの力が、10 から 100 になるようなチームをつくることです」というふうに、単なる「意見=オピニオン」を聞かされるだけで終わってしまう可能性がある。

しかし、「チームマネジメントでうまくいったときの話をしてください」と突っ込んで聞けば、意見ではなく事実を話すしかなくなる。もちろんウソをつくことは可能だが、「そのときにどうしました?」「どんなかたちでしたか?」「どんな状態でしたか?」とディープ・ダイブしていくことで、メッキをはがすことができる。

必要なのはファクトであって、オピニオンではない。意見はあくまでもフィクションだ。その人の実態でも、能力でもない。人を見るうえでは必要のないことである。

加えて、「感情」も人を選ぶ際には不要な要素である。「そのときどんな気持ちだったか?」「怒ったのか?」「嬉しかったか?」そうした感情は「再現性」があまりない。そのときの雰囲気やシチュエーションに左右されるからだ。

それよりも大事なのは前述の「行動特性」である。エモーションではなく、何をしたかというファクトである。なぜなら行動特性は再現性が高いからだ。

例えば、「多くの人たちが反対していても、やるべきだと思ったら突破する」というエピソードを語っている人は、似たようなことが起こった場合、やはり同じような行動を取る可能性が高い

感性を活性化させる #

脳がベストな状態で活動するために重要だとされているのが、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)である。「何も考えていない状態で、ぼんやりと安静状態にある脳の神経活動」のことだ。要は、人間の脳というのはリラックスした状態のときに、もっとも活性化されるということである。

逆にリラックスしていない状態、いわば「問題解決モード」のみで人を見ることは非常に危険である。問題解決モードになると、個々の現象しか目に入らなくなり、全体が見えなくなるからだ。

面接などで相手にインタビューするときは、相手の言葉を捕まえて論理的に深ぼる「ディープ・ダイブ」をするとき以外は、脳をリラックスさせて、感覚的に言えばボーッとして、DMN を働かせるべきなのである。特に DMN 状態にすべきタイミングが、相手のポテンシャルやソース・オブ・エナジーといった深い部分を見極めようというときだ。この場合、見るというよりも、相手の発するエネルギーを受け止める状態をつくるといったほうがしっくりくるかもしれない。

なお、DMN 状態への入り方にはコツがある。

  • 息を吐く
  • リラックスしやすい体の姿勢をつくる
  • 目の焦点を広げる

感覚的に言うと、前を見て歩いているが、同時に足元にいるアリが目に入るというような感覚だ。慣れれば誰でもそういう状態に自分の感覚を持っていけるのである。

ひと通り話を聞き終わった後、これといった理由もないのに、「なんかあいつ怪しいな」とか「どうも釈然としない」と感じたことはないだろうか。

それは、相手が発するシグナルを、脳が無意識に感知しているからだ。もしそういったモヤモヤとしてた気持ちが浮かんだら、「気のせいかも」とスルーするのではなく、「何かあるのかもしれない」と疑ってかかってみたほうがいい。断っておくが、見た目が嫌いだとか、話し方が癪にさわるといった、偏見や第一印象のことではない。

徹底的に相手を洞察し、論理的な四国錯誤を尽くしたあとに浮かぶ妙な違和感。こうした「違和感」がある場合は、それをばかにしてはいけない。

第4章:人を見る達人となるために #

書けないうちは思考ではない #

どれくらい自分は人を見る目があるのか、どれくらい考えているのか。自分の力を把握したいというときの、良い方法のひとつが「書く」ことである。

思考を文章にすると、曖昧なものがあぶり出される。書いているうちに、「あ、ここの部分を質問しそびれたな」とか、「大事なところを見落としていた」という発見がある。自分の見る目の至らない部分が浮き彫りになるのだ。

書くことのイメージを持っていただくため、具体的な例を一つあげてみよう。以下に示すサンプルは、著者の実際の仕事で「財務責任者の幹部候補者として採用を進めたいが、チェックをしてほしい」という依頼のもと実施した1時間の面接の後にざっと書いたものを、個人や組織を特定できないように改変したものだ。特にフォーマットがあったわけではなく、クイック・メモとして提出したものであり、20 分以内で書き上げていたと思う。

A 氏簡易アセスメント・レポート
2022年△月△日11時より1時間zoomにて実施

①CFOとしてのスキル・経験:未然
◎A社で、資金調達ラウンドをリード。投資家コミュニケーション、とりまとめに貢献。最終的にはA氏の入社以前に発生していた事案への対応があったため、調達そのものがキャンセルとなった。
◎B社の買収において、A氏の活躍は自らのメイン・ストーリーとして出てこず、その貢献度は低かった可能性。
◎投資、買収の実務については、C社時代に投資ファンド等をクライアントとしたプロジェクトで得た経験を下敷きとしている。
◎したがって、CFOとしての能力・経験においては未然。現段階では、経営企画、プロジェクトマネジメント屋のレベルを大きく超えたものではないと判断。

②リーダーシップとコンピテンシー:普通
【戦略性:やや高い】
◎物事の大枠を把握し、整理したうえで、パズルを解くように解決してゆく能力は発揮。
A社での20人から200人へのグロース課程において、部長としてオールラウンダー的な強みを発揮し、ファシリテート(統合)しながら推進。
◎一方で抽象的な絵を書き、それに向けて実現してゆくような、ハイレイヤーでの戦略的なアジェンダ設定を行ってきた実績は見受けられない。
【達成志向:やや低い】
◎目標達成志向は、顕著ではない。自らが納得したことのみ自分は動く傾向。他人から数字を作られた場合モチベートされないという発言あり。天邪鬼性が強いと自認。
【変革志向:普通】
◎C社以降の経験は基本的に「挑戦→挫折」というパターンの連鎖だが、その過程において自ら工夫し、変革をしかけてきたような事例・エピソードは見いだせなかった。
◎社会正義へのこだわりがあり、「まっすぐな男」を自認。一方で、まっすぐぶつかって潰れていく傾向を繰り返していることにあまり気づいておらず、そこにはプライドという自己防衛本能が機能しているのではと思慮。

③ポテンシャル(成長の伸びしろ):やや高い
【好奇心:普通】
◎幅広い分野に興味関心があるとは見受けられず、多様なジャンルへの開拓に強いエネルギーを出す様子は見受けられなかった。また、特定のことを深堀りしていく点も見受けられなかった。基本的には親からの勉強プレッシャーの克服に青年期を消耗していたため育まれなかった可能性がある。
【洞察力:高い】
◎ここが彼のスパイク。1を聞くと10を答えられるタイプ。概念レベルでの議論も得意であり、ことなる事象から共通性を見出すこともでき、そういった問いに対してエネルギーを感じている。
【胆力:やや低い】
◎人生でこれまで、大きな課題にぶつかり、それを克服したエピソードを聞くと、(自分の成功体験である)受験勉強の話になり、こじんまりとした話となってしまった。
◎C社時代の社長との衝突において、客観的に整理している風でいながら、いまだにそのエピソードを語る際にも強いストレスを感じていた様子(視線は泳ぎ、呼吸も浅くなり、早口に)。
【共鳴力:(評価不能)】
◎時間切れで、チームマネジメントなどを聞ききれなかったため、本項はアセスメント未然(人と接することからエネルギーを得る面はあることは推察できる)。

④その他オブザベーション
◎面談の最後に、ご自身の強みを聞いた際、「それは『分かる人がわかればいい』という思いもある」という発言あり、自己評価の高さが、傲慢な形で出ることはないか、レファレンスで検証したい。
◎同様の懸念として、面談中に子どもが部屋に入室してきたが、急に高圧的な表情、反応を見せ、子どもを追いやるそぐりを観察。

⑤総括
◎以上から、CFO職としての経験、能力開発は未然。しかし、トップリーダーとしてのポテンシャルは十分見られる。総合的には、御社のリーダーシップ層の一員として、物足りなさを持った。他の候補者との比較で慎重に検討するのがよいのではないか。
◎気になる点は、近年の挫折の連続から、自己分析をかなりされ、自己探索モードになっておられて久しい様子。実際に表面的分析、把握は幅広くなされており、割とフラットに過去の失敗を反省している。しかしその一方で、「自分は他者からの評価が高い」と認識していることにギャップを感じた。過去の成功体験(受験・コンサル)からいまだ脱却できていない可能性があり、それが成長のブロックとなりうるのではないかと懸念。

コツは、会ってからなるべく時間を置かずに書くということ。会った直後は一番情報が多く、新鮮だからだ。そして、あまり考えずに、最初から構造化しすぎずに、思ったことだけをつらつら書き出す。情報をいったん全部ダウンロードしておく感覚だ。

そして、その日の夜くらいに見直して、その人のことを考えながら、「おそらくこういうところがこうだから、きっと彼はこうなっているに違いない」というふうに、ダウンロードしたデータを解析する。会った直後というのは少なからず興奮しているので、冷静に判断しきれないからだ。

ちなみに、面接時に録音などはしないほうが良い。相手にあからさまに警戒心を持たれるからだ。どんなに「外には出しませんから」と言っても、一度警戒心を抱いた心をときほぐすのは難しい。決して本音では語ってくれないだろう。

メモも、数字や重要な単語、固有名詞程度にとどめておき、あとはしっかり相手と対峙する。そして気付いた反応、特定の質問で苦しそうな顔を見せたとか、質問をはぐらかしたとか、ごまかしたといったこと、を自分にだけ分かる符丁や言葉でメモしておく。語ったないようは自分の頭の中に記憶しておく。そのくらいが失礼にならず、相手に集中できる限界だろう。

こういうわけで、それを忘れないうちに、直後に情報をダウンロードしておく必要があるのだ。