読書メモ:世界はシステムで動く ー いま起きていることの本質をつかむ考え方

読書メモ:世界はシステムで動く ー いま起きていることの本質をつかむ考え方

読書メモ。

株価の暴落、資源枯渇、価格競争のエスカレート……さまざまな出来事の裏側では何が起きているのか?物事を大局的に見つめ、真の解決策を導き出す「システム思考」の極意を、いまなお世界中に影響を与えつづける稀代の思考家がわかりやすく解説。

第 1 章:基礎 #

部分の総和以上のもの #

システムとは、古い収集品のようなものではありません。システムとは、何かを達成するように一貫性を持って組織されている、相互につながっている一連の構成要素です。少しの間、この定義をじっと見てみると、「システムとは3種類のものからなっている」ことがわかります。「要素」と「相互のつながり」、そして「機能」または「目的」です。

たとえば、あなたの消化器システムの要素には、歯、酵素、胃、腸などがあります。これらは、食物の物理的な流れを通して、そして、洗練された一連の調整用の化学信号を通して、相互につながっています。このシステムの機能は、食物をその基本的な栄養素に分解し、使えない廃棄物を捨てながら、それらの栄養素を血流(別のシステム)に移すことです。

サッカーチームは、選手、コーチ、サッカー場、ボールなどの要素からなるシステムです。相互のつながりは、試合のルール、コーチの戦略、選手間のコミュニケーション、ボールや選手の動きに影響を与える物理法則です。チームの目的は、試合に勝つこと、楽しむこと、運動すること、数百万ドルを稼ぐこと、またはこれらのすべてです。

学校もシステムですし、都市も、工場も、企業も、一連の経済もシステムです。動物もシステムです。木もシステムですし、森は木々や動物といったサブシステムを包む、より大きなシステムです。地球もシステムであり、太陽系もシステムです。銀河だってシステムです。システムがシステムの中に埋め込まれており、それがさらに別のシステムに埋め込まれているということもあります。

「システムではないもの」はあるのでしょうか?ええ、あります。特に相互のつながりや機能を持たない、何かの寄せ集めがそうです。たまたま路上に撒き散らされた砂は、システムではありません。砂を足しても取り除いても、変わらずただ路上に砂があるだけです。サッカーチームやあなたの消化器システムだったら、その一部を適当に足したり取り除いたりしたら、すぐに前と同じシステムではなくなってしまいますよね。

生き物が死ぬと、その「システムらしさ」を失います。その生き物をひとつのものにしていた多くの相互のつながりが機能しなくなり、散逸していくのです。もっとも、その物質は、より大きな食物連鎖システムの一部として残るのですが。「住人がお互いを知っており、しょっちゅうやりとりをしていた、かつての町の近隣地域は、社会システムだった。見知らぬ人ばかりという新しいアパート地区は、新しい人間関係が生まれて、システムが形作られるまでは、社会システムとはいえない」という人もいます。

こういった例から、システムにはある完全性や全体性があること、そして、その完全性を維持するための能動的な一連のメカニズムがあることがわかるでしょう。システムには無生物が含まれていることもありますし、無生物から構成されるシステムもあるかもしれませんが、それでも、まるで生きているかのように、変化し、適応し、出来事に反応し、目標を追い求め、損傷を修復し、自身の生存に注意を払います。システムは、自己組織化が可能で、多くの場合、(少なくともある程度の)外部からのかく乱に対して自己修復できます。しなやかな弾力性を有し、システムの多くは進化的です。あるシステムから、全く新しい、これまで創造もできなかったような別のシステムが生まれることもあるのです。

ゲームのプレーヤーの向こうにあるルールを見る #

「1」がわかっているのだから、「2」もわかる、だって「1」と「1」で「2」でしょ、と思うだろう。しかし、「と」も理解しなくてはならないことを忘れている。 ー スーフィー教の教え

多くの場合、いちばん気がつきやすいのは、システムの要素です。要素の多くは、目に見え、触ることのできるものだからです。木を構成している要素には、「根」、「幹」、「枝」、「葉」があります。もっとよく見れば、専門化した細胞が見えます。大学と呼ばれるシステムを構成しているのは、「建物」、「学生」、「教授」、「管理者」、「図書館」、「本」、「コンピュータ」 …… と続けていくことができ、そして、こういったもののすべては「何からできているか」を言うこともできるでしょう。要素といっても " 物体 " とは限りません。形のないものもシステムの要素です。大学でいえば、「学校への誇り」や「学業面での才能」は、このシステムにとって非常に重要かもしれない、形のない要素です。あるシステムの要素を列挙し始めたら、その作業にはほぼ終わりはありません。要素を下位の要素に分け、さらに下位の要素に分解してゆくことができます。そうしているうちに、じきにシステムを見失ってしまうでしょう。ことわざにもあるように、「木を見て森を見ず」になってしまうのです。

その方向に行き過ぎてしまう前に、要素の分解をやめて、「つながり」、つまり、要素をつなげている関係性を探し始めるのがよいでしょう。

木というシステムの「つながり」とは、その木の代謝プロセスに影響を与える物理的な流れや化学的な反応です。そういったシグナルがあるから、ある部分が他の部分に起きていることに反応することができるのです。たとえば、太陽の照っている日には、葉は水分を失いますから、水を運ぶ管の水圧が低下し、それによって、根はより多くの水を摂取することになります。反対に、根が土壌の乾燥を経験すると、水圧の低下がシグナルとなって、葉は気孔を閉じ、貴重な水をそれ以上失わないようにするのです。どのような関係性があるから、木はそのようなことができるのでしょうか?そのすべてを理解している人はいません。この知識の欠如は、驚くべきことではありません。システムのそれぞれの要素について学ぶほうが、要素間のつながりを学ぶよりも容易だからです。

大学というシステムのつながりには、「入学者選考の基準」、「学位取得の必要要件」、「試験と成績評価」、「予算とお金の流れ」、「噂話」、そして最も重要なものとして、そのシステム全体の目的であろう「知識の伝達」などがあります。

関係性が見えにくいとしたら、「機能」や「目的」はさらに見えにくいものです。システムの機能や目的は、明示的に語られたり、書かれたり、表明されているとは限りませんが、システムの働きを通じてわかります。システムの目的を推測する最良の方法は、そのシステムがどのように挙動するかをしばらくじっと見ることです。

1匹のカエルが右を向いてハエを捕まえ、今度は左を向いてハエを捕まえ、それから、ぐるりと後ろを向いてハエを捕まえたとしたら、そのカエルの目的は、右や左や後ろを向くことではなく、ハエを捕まえることに関連するものでしょう。政府が「環境保護に関心がある」と口では言いながら、その目的に向けての資金や努力はほとんど投じないとしたら、実際のところは、環境保護は政府の目的ではないのです。目的とは、美辞麗句や掲げられた目標からではなく、行動から推測されるものです。

サーモスタット付きの暖房システムの機能は、建物をある決められた温度に保つことです。植物の機能のひとつは、種をつくり、より多くの植物を作ることです。国家経済の目的のひとつは、その挙動から判断するに、より大きく成長し続けることです。ほとんどすべてのシステムにとっての重要な機能は、自らが必ず永続できるようにすることです。

システムの目的とは、人間の目的であるとは限らず、必ずしもそのシステム内にある主体が意図したものでもありません。実際、システムの最も苛立たしい側面は、下位の構成単位の目的が合わさることで、全体としてはだれも望んでいない挙動をもたらすというものです。だれも薬物中毒や犯罪の蔓延する社会を創りたいと思ってはいなくても、関与する当事者の目的と結果としての行動が組み合わさると、それらを根絶することが極めて難しいシステムを作るのです。

システムの中にシステムが入れ子状に入っていることもあります。したがって、目的の中に目的がある場合もあります。大学の目的は、知識を発見・維持し、次の世代へと伝えていくことです。大学の中で、ある学生の目的はよい成績を取ることかもしれませんし、ある教授の目的は定年まで勤められる終身地位の権利を得ることかもしれません。管理者の目的は予算の収支を合わせることかもしれません。こういった下位の目的はすべて、全体の目的と衝突する可能性があります。たとえば、学生はカンニングをし、教授は論文発表のために学生を無視し、管理者は教授をクビにすることで予算の収支を合わせる、といった具合です。下位の目的とシステム全体の目的の調和を維持することは、うまくいくシステムにとって不可欠の機能です。

システムの構成要素、つながり、目的について、ひとつずつ変えたところを想像してみると、それぞれの相対的な重要性がわかるでしょう。通常、要素を変えてもシステムに対する影響は最小です。アメリカン・フットボールチームの選手を全員替えたとしても、同じようにフットボールチームとして認識できます(プレーはずっとよくなったり、ずっと悪くなるかもしれませんので、実際には、システムの特定の要素も重要かもしれません)。木はその細胞をつねに入れ替えていますし、葉っぱも年ごとなどに変わるでしょうが、それでも本質的には同じ「木」です。あなたの体も数週間ごとに細胞を入れ替えていますが、あなたの身体でありつづけます。大学には学生が常時出たり入ったりしており、教授や管理者も(より遅いペースですが)出たり入ったりしています。それでも大学であることは変わりません。実際、他大学とは微妙な点で区別ができる、同じ大学でありつづけます。それはちょうど、ゼネラルモーターズや米国議会が、その構成員がすべて入れ替わったとしても、どういうわけかそのアイデンティティを保っているのと同じです。システムは通常、そのシステムでありつづけ、その要素をすべて取り替えたとしても、つながりと目的が同じである限り、変わるとしてもゆっくりとしか変わりません。

つながりが変わると、システムは大きく変わります。チームの選手が同じであったとしても、それとは認識できなくなることがあるほどです。ルールをフットボールのルールからバスケットボールのルールに変えれば、「試合の仕方がまったく変わる」といった、まったく新しい事態になります。木のつながりを変えれば(たとえば、二酸化炭素を吸収して、酸素を吐き出す代わりに、その逆にしたら)、それはもはや木ではなくなるでしょう(動物かもしれませんね)。大学で、学生が教授の評価をし、議論は論理ではなく力で勝負が決まるのであれば、その場所には「大学」ではなく、別の名前をつける必要があるでしょう。それは興味深い団体かもしれませんが、大学ではないでしょう。システムのつながりを変えることは、システムを劇的に変えうるのです。

機能や目的を変えることも、劇的なものになりえます。たとえば、選手とルールはそのままで、目的を、「勝つこと」から「負けること」へ変えたら、どうなるでしょうか?木の機能が「生き延びて繁殖すること」ではなく、「土中の栄養分をすべて取り込み、どこまでも大きくなること」だったとしたら?人々は、大学の目的を「知識を広げること」以外にもいろいろと考えてきました(お金を儲けること、人々を洗脳すること、フットボールの試合に勝つことなど)。たとえ要素やつながりは何一つ変わらなかったとしても、目的が変われば、システムは根底から変わります。

「システムの中の要素、つながり、目的のどれがいちばん重要なのですか?」という質問は、" システム的 " ではない質問です。すべてが重要なのです。すべてが関連しており、すべてが役割を持っているのです。しかしながら、多くの場合、システムの中でも最も目につかない部分である機能または目的は、そのシステムの挙動を決する上で最も重要です。つながりも極めて重要です。関係性を変えると、通常はシステムの挙動が変わります。システムの部分である要素は、私たちがいちばん気づきやすいものですが、システムの独自の特性を決める上では、最も重要ではない場合が多い(つねにではありませんが)のです。もっとも、要素を変えることが関係性や目的を変えることに繋がる場合は、要素も重要です。

バスタブから学ぶ入門編 #

「ストック」は、どのようなシステムであれ、その基盤となるものです。ストックとはシステムの要素ですが、いつでも見たり感じたり、数えたり測ったりすることができるものです。システムのストックとは、その名の通り、時間の経過とともに蓄積された物質や情報の蓄え、量、蓄積です。バスタブの中の水もそうでしょうし、人口、本屋にある書籍、木材、銀行にあるお金、あなた自身の自信もそうでしょう。

ストックは、「フロー」の動きを通して、時間の経過とともに変わっていきます。フローは、注水と排水、出生と死亡、購入と販売、成長と衰弱、預金と引き出し、成功と失敗といったものです。つまり、ストックとは、「システムの中で変化するフローの履歴の現時点での記憶」ということになります。

ストックとフローのダイナミクス(その経時的な挙動)を理解できれば、複雑なシステムの挙動についてかなりの部分を理解したことになります。そして、バスタブでの経験を何度もしていれば、ストックとフローのダイナミクスがわかるでしょう。

バスタブに水がいっぱいだと想像してください。排水栓をして、蛇口は閉じられています。何も変わらない、動きのない、退屈なシステムです。では、排水栓を抜いたところを想像してみてください。もちろん、水が流れ出ていきます。バスタブの水位は、バスタブが空っぽになるまで下がっていきます。

では、もう一度、水がいっぱいに張られたバスタブを想像してください。ふたたび排水栓を抜きますが、今回はバスタブの水位が半分になったとき、蛇口をひねって、流れ出る水の量とちょうど同じだけ、水が流れ込むようにします。どうなるでしょうか?

バスタブの水量は、インフローがアウトフローと等しくなったときに達していた水位で保たれます。これは、動的な平衡状態です。水はつねにバスタブの中を流れているのですが、水位は変わりません。

アウトフローは一定のまま、インフローをいくぶん強めにしたと想像しましょう。バスタブの中の水位は少しずつ上昇します。その後、蛇口を戻して、インフローがアウトフローと同じになるようにすると、バスタブの水の上昇は止まります。さらに蛇口を絞ると、水位はゆっくりと下がっていくでしょう。

このバスタブのモデルは、ストックはひとつだけ、インフローもアウトフローもひとつというとても単純なシステムです。時間軸でいえば、バスタブからの蒸発は取るに足らないと見なしましたので、そのアウトフローは含めていません。モデルはすべて、現実世界を単純化したものです。

このバスタブのモデルから、より複雑なシステムにも適用できる重要な原則を導き出すことができます。

  • すべてのインフローの合計が、すべてのアウトフローの合計を上回っている限り、ストックのレベルは上昇します。
  • すべてのアウトフローの合計が、すべてのインフローの合計を上回っている限り、ストックのレベルは下がっていきます。
  • すべてのアウトフローの合計がすべてのインフローの合計と等しい場合は、ストックのレベルは変わりません。インフローとアウトフローが等しくなった時点に到達していたレベルで、動的な平衡状態に保たれることになります。

人間はどうも、フローよりもストックに集中して考えがちなようです。加えて、私たちがフローに注意を向けるときは、アウトフローよりもインフローにより注意を集中する傾向があります。そのせいで、「バスタブを満たすには、インフローの量を増やすだけではなく、アウトフローの量を減らしてもよい」ことを見逃すことがあります。「石油を基盤とした経済の寿命を延ばすには、新しい油田を発見すればよい」ということは、だれもが理解していますが、「石油を燃やす量を減らすことでも同じ結果が得られる」ことを理解するのは、より難しいようです。入手可能な石油のストックに対する影響という点からみれば、エネルギー効率の大躍進は、新たな油田の発見に匹敵します。もっとも、だれがそこから利益を得るかは異なりますが。

バスタブの排水栓や蛇口(フロー)の調整は一瞬でできますが、バスタブの中の水位(ストック)を急に変えるのはずっと難しいことです。排水栓を抜いても、水が瞬時に排水栓から流出することはありえません。蛇口を全開にしても、バスタブを瞬時にいっぱいにすることはできません。ストックが変化するのには時間がかかるのです。なぜならば、フローの移動には時間がかかるからです。これはとても重要なポイントであり、「システムはなぜそのように挙動するのか」を理解する上での鍵を握っています。ストックはたいていゆっくりと変化し、システムにおいて、時間的遅れ、タイムラグ、バッファー、安定器、勢いの源として機能しうるのです。ストックの反応は、急激な変化に対しても、ゆっくりと満ちたりゆっくりと空になったりするだけです。大きなストックは特にそうです。

ゆっくりと変化するストックから生じるタイムラグは、システムに問題を発生させることがありますが、安定を生み出す源にもなりえます。何百年もかけて蓄積した土壌は、一瞬のうちにすべてが侵食されるということはめったにありません。長期にわたって、地下水が再補充されるペースよりも速いペースで、地下水を汲み上げることができます。帯水層が損なわれるほど水がなくなるのは、そのあとなのです。ストックがもたらすタイムラグのおかげで、いろいろいじってみたり、実験したり、うまくいっていない政策を変えたりする余地が生まれます。

ストックがあることで、インフローとアウトフローはそれぞれが独立し、一時的に両者間のバランスを崩すことが可能となる、ということです。もし自動車がガソリンを燃焼するペースとまったく同じペースで、ガソリンを精製所で生産しなければならないとしたら、石油会社の経営は困難極まるでしょう。木々が成長するそのペースで森林を伐採することは、実現可能ではありません。貯蔵タンクの中のガソリンも森林に立っている木々もストックであり、そのおかげで、ある確実性、連続性、予測可能性を持って物事が進むのです。短期的にフローが変動したとしても、です。

インフローとアウトフローを切り離して安定させるために、ストックを維持するメカニズムがたくさんつくり出されてきました。干ばつや洪水の時には特にそうですが、貯水池のおかげで、下流の住民や農家は、川の流量の変化に合わせて暮らしや仕事を絶えず調整することなく暮らすことができます。製品の在庫があるおかげで、消費者の需要は変動しますが、生産はスムーズに進めることができます。

個人や組織の意思決定の多くは、ストックの水準を調整しようとするものです。在庫が多すぎれば、価格を下げたり広告費を増やしたりします。そうすることで、販売が増え、在庫が減るでしょう。台所の食材のストックが少なくなれば、買い物に行きますよね。貯水池の水位は、高すぎたり低すぎたりすると、それを正そうとするさまざまな行動をもたらします。同じことが、あなたの財布の中のお金のストックにも言えるでしょう。

人々は絶えずストックを監視して、ストックを増やしたり減らしたり、または許容範囲内に保とうと、意思決定をし、行動をとります。こういった意思決定が積み重なって、あらゆる種類のシステムの盛衰、つまり成功と問題を生み出します。システム思考家は、世界を「フローの操作によってその水準を調整するメカニズムが付いているストックの集合体」として見ています。システム思考家は、世の中を「フィードバック・プロセス」の集合体として見ているのです。

システムはどのようにして自らを動かすか #

ストックが飛躍的に増えたり、急激に減ったり、またはまわりで何が起ころうとある範囲内に保たれているとき、そこにはコントロール・メカニズムが作用しているように思えます。つまり、時間が経過しても持続する挙動があれば、そこにはおそらく、その一貫した挙動をつくり出しているメカニズムがあるのでしょう。そのメカニズムは、フィードバック・ループを通して機能します。「フィードバック・ループが存在している」という最初の手がかりは、長期間にわたって一貫した挙動パターンが見られることです。

フィードバック・ループができるのは、ストックの変化がその同じストックに入ってくるインフローやそこから出ていくアウトフローに影響を与えるときです。ストック自体の大きさの変化によって、ストックに入るインフローやストックから出ていくアウトフローが調整されるのです。ストックの水準を監視しているのがだれまたは何であったとしても、インフローまたはアウトフローまたはその両方のペースを調整し、それによってストックの水準を変えようという、是正プロセスを始めます。ストックの水準は、それ自体をコントロールするための一連のシグナルと行動を通してフィードバックされるのです。

安定化のループ ー バランス型フィードバック #

よく見られるフィードバック・ループのひとつめは、ストックの水準を安定させるものです。ストックの水準は、ぴったりとは固定されていないかもしれませんが、つねにある許容範囲内にあります。この種のループを「バランス型フィードバック・ループ(Balancing feedback loop)」と呼びます。

バランス型フィードバックはどれも、ストックをある与えられた値に、またはある範囲内に保とうとします。どの方向にせよシステムを変えようとすると、バランス型フィードバック・ループはそれを引き下げようとします。あなたがストックを減らしすぎると、バランス型フィードバック・ループはそれを戻そうとするでしょう。

どんどん進行するループ ー 自己強化型フィードバック #

ふたつめのフィードバック・ループは、増幅型、自己増殖型、雪だるま式のもので、健全な成長や暴走型の破壊をもたらす、「好循環」または「悪循環」です。「自己強化型フィードバック・ループ(Reinforcing feedback loop)」と呼ばれます。

元々のストックがたくさんあればあるほど、ストックに対するインプットが多くなります。自己強化型フィードバック・ループは、どの方向に向かってであれ、自らに課せられた変化を増幅します。

システムの要素がそれ自身を再生産する能力か、それ自身に対する一定の割合で大きくなる能力を持っているところならどこでも、自己強化型ループを見つけることができます。たとえば、「人口」や「経済」です。この自己強化型フィードバック・ループは、経済における成長の中核にある原動力です。銀行口座のお金、HIV/AIDS の感染患者、軍備競争における武器など、何が増えていくかしだいです。

第 2 章:システムの動物園にちょっと行ってみる #

ストックがひとつで、ふたつの競合するバランス型ループを持つ ー サーモスタット #

部屋の暖房を調整するサーモスタットを思い浮かべてください。室温がサーモスタットの設定温度よりも下がればすぐに、サーモスタットはその差を感知し、暖房機からの熱のフローのスイッチを入れるシグナルを送り、部屋を暖めます。室温が再び上がれば、サーモスタットは熱のインフローのスイッチを切ります。

もしこのシステムには他には何もなく、寒い部屋でサーモスタットの設定温度を 18°C にしたなら、暖房装置がついて、部屋が暖まります。室温がサーモスタットの設定温度に達すると、暖房装置のスイッチは切れ、部屋は目標温度ちょうどで保たれます。

しかし、このシステムにあるループはこれだけではありません。熱は外にも漏れていくのです。

熱のアウトフローを制御しているのはふたつめのバランス型フィードバックで、このループは、つねに室温を外気温と等しくしようとします。ここでは、部屋の断熱が完璧ではないため、熱の一部は暖かい部屋から冷たい戸外へ逃げていくことが前提になっています。

では、このふたつのループが同時に作用したら、どうなるでしょう?断熱が十分しっかりしていて暖房装置も適切な大きさだとすると、" 暖房ループ " が " 冷却ループ " よりも優勢になります。

部屋が暖かくなるほど、部屋の外へ逃げていく熱が増えます。室温と戸外の温度差が大きくなるためです。しかし、暖房装置は漏れる熱よりも多くの熱を送り込み続けるので、部屋は目標温度近くまで暖まります。それ以降は、絶えず部屋から逃げていく熱の埋め合わせをするため、暖房装置のスイッチはついたり消えたりを繰り返します。

このシミュレーションでは、サーモスタットの設定温度は 18°C ですが、室温は 18°C を少し下回ったところで横ばいになります。外へ熱が漏れていくからです。暖房装置が温度を戻すためのシグナルを受け取っている間にもいくらかの熱が失われるのです。これが、競合するバランス型ループを持つシステムに特徴的な挙動です。

住宅の暖房システムでは、みんな「実際の目標温度よりも少し高めにサーモスタットを設定したらよい」ことを知っています。

この例と同じように、バランス型フィードバック・ループが競合しているという構造を持つほかのシステムにとって、「ストックをコントロールしようとしている間もそのストックが変化し続ける」ということが、実際の問題を引き起こす可能性があります。たとえば、店の在庫をある水準に保とうとしているとしましょう。今すぐに明らかな不足を補うために、瞬時に新しい在庫を発注することはできません。注文の品が入ってくるのを待っている間に売れていく品物を考慮に入れなければ、在庫は十分に高い水準には決してならないでしょう。

ここには、重要な一般原則があります。「フィードバック・ループが伝える情報が影響を及ぼせるのは、将来の挙動だけである」というものです。現在のフィードバックを動かしている挙動を正せる速さで情報を届けることはできないために、現在の挙動に影響を与えることはできません。システムの中でフィードバックに基づいて意思決定をしている人は、現在のフィードバックを動かしているシステムの挙動を変えることはできません。その人の行う意思決定が影響を与えられるのは、将来の挙動だけなのです。

それは、「反応にはつねに時間的な遅れがある」ことを意味しています。「フローは、フローに対して瞬時に反応できない」ということです。フローはストックの変化にのみ反応することができます。多くの経済モデルは、ここで過ちを犯しています。たとえば価格の変化に対して、消費や生産は直ちに反応しうると仮定しているのです。実際の経済は、多くの経済モデルとぴったり同じようには挙動しないことが多いのですが、その理由のひとつがこの反応の時間的遅れなのです。

サーモスタットの話の最後に、さまざまな戸外の温度に対してどのような挙動をするのかを見ておきましょう。申し分なく機能するサーモスタットが 24 時間運転しています。どのバランス型フィードバック・ループにも、" 破綻点 " があります。ほかのループがそのストックを目標からあまりにも強く引き離してしまい、戻ることができなくなる地点です。戸外の温度は夜更けに氷点下まで下がっていきます。部屋からの熱損失がより大きい場合、温度が非常に低いと、暖房システムは熱の損失についていくことができません。しばらくの間、このシステムを支配しているのは、室温を戸外の温度まで下げようとするループです。かなり居心地の悪い部屋になってしまいますね。最終的に、戸外の温度が再び上がり、熱の漏れが鈍化し、その時なおも最大限で運転している暖房システムはやっと先んじることができ、部屋をもう一度暖め始めます。

ひとつの自己強化型ループと一つのバランス型ループを持つひとつのストック ー 人口と工業経済 #

自己強化型ループとバランス型ループの両方が同じストックを引っ張ろうとしていたら、何が起こるでしょうか?これは、最もよくある、重要なシステム構造のひとつです。とりわけ、この構造は、人口などあらゆる生物の個体数や、あらゆる経済を説明するものです。

人口には、出生率を通して成長をもたらす自己強化型ループと、死亡率を通して減少をもたらすバランス型ループがあります。出生率と死亡率が一定である限り(実際にはめったにないことですが)、このシステムの挙動はシンプルなものです。出生を決める自己強化型フィードバック・ループが、死亡を決めるバランス型フィードバック・ループよりも強いかどうかによって、幾何級数的に増えるか、減るか、です。

フロー(出生と死亡)の変化が、ストック(人口)の経時的行動の変化を作り出します。たとえば、世界の出生率が 2035 年までに死亡率と同じところまで着実に落ちていき、その後、死亡率も出生率も一定であるとしたら、人口は横ばいになり、出生と死亡がきっちりバランスする、動的な平衡状態になります。

この挙動は、フィードバック・ループの支配がシフトするひとつの例です。この「支配」という考え方は、システム思考で重要な概念です。多くの場合、システムには、同時に作用しているいくつもの競合するフィードバック・ループがあるため、システムを支配しているループが挙動を決めることになるのです。

サーモスタットのシステムで、戸外の温度が下がり、断熱が不十分な家から漏れる熱が、暖房システムが部屋に熱を供給する能力を超えてしまったとき、支配がシフトする様子を見ました。温度を上げるループから温度を下げるループへの支配のシフトです。

人口のシステムの挙動には、ほんのいくつかのあり方しかありません。そしてそれは、出生率と死亡率という " 原動力となる " 変数に何が起こるかによって決まってきます。自己強化型とバランス型のループをひとつずつ持ったシンプルなシステムに起こりうるのは、次のどれかだけです。つながっている自己強化型ループがバランス型ループの影響を受けるストックは、自己強化型ループが支配的であれば、幾何級数的に増大します。バランス型ループが支配的であれば、衰退していきます。ふたつのループの強さが同じであれば、横ばいになります。または、ふたつのループの相対的な強さが時間の経過とともに変わる場合には、これらのことを次から次へと繰り返すことになります。

重要な洞察のひとつは、「外見上のシステムはまったく似ていなくても、フィードバック構造が似ているシステムは、同じようなダイナミックな挙動を生み出す」というものです。

人口は、工業経済とはまったく異なりますが、例外的に共通しているのは「自らから自らを再生産することができ、それによって幾何級数的に成長できる」ことです。そしてどちらも年を取り、死んでいきます。

時間的遅れのあるシステム ー 企業の在庫 #

自動車販売店は、ある程度の在庫を保っておく必要があります。毎日、工場からの納車と消費者の購入がぴったり合うわけではないからです。消費者がどのくらい購入するかは、日々の単位では予測することができません。自動車販売店は、工場からの納車が時折遅れることに備え、予備の在庫(バッファー)もいくらか持っておく必要があります。

販売店は、販売を見ながら、たとえば、増えているようであれば、工場への発注数を調整します。そうして、車の販売数が前よりも多くても、10 日分はまかなえるよう、新たな望ましいレベルに在庫を引き上げます。つまり、たくさん売れるということは、認知された販売数が増えることであり、すると、在庫と望ましい在庫の間のギャップが大きくなります。すると、発注数を増やすことになり、それによって、納車される車が増え、在庫を引き上げることになるので、販売ペースが前よりも高いレベルでも問題なく供給することができます。

販売というバランス型ループが在庫ストックから車を引き出し、それと競合しながら、販売で減った車を補充して在庫を維持するバランス型ループがあるのです。

このシンプルなモデルに、別のものを足してみます。実際の世界でもよく経験する、3つの時間的遅れです。

まず、認知の遅れです。この場合は、意図的なものです。自動車販売店は、販売が一時的に跳ね上がっても反応しません。一時的な跳ね上がりや落ち込みと区別して実際の傾向を把握するために、過去5日間の販売の平均を計算してから、発注の意思決定をします。

ふたつめは、反応の遅れです。発注を調整する必要性が明らかであっても、1回の発注ですべてを調整しようとはしません。そうではなく、1回の発注ごとに、不足分の3分の1を補います。別の言い方をすれば、この傾向が本物であるかをさらに確認するために、3日間かけて部分的に調整していくのです。

3つめは、納車の遅れです。工場のサプライヤーが注文を受け取り、処理し、販売店に納車するまでに5日間かかります。

消費者の需要の増加によって販売が 10% 増えたときの在庫に何が起こるでしょうか?上下に振れる「振動」が起こります!

一度販売が増えると在庫は減ります。自動車販売店は、高い水準での販売が続くことを確認するまで、十分な期間、見守ります。それから、新たな販売ペースをカバーし、在庫を引き上げようと、車の発注を増やし始めます。しかし、その発注分が納車されるまで、時間がかかります。その間、在庫はさらに低下します。そこで 10 日分の在庫を戻すため、発注をもう少し増やさねばなりません。

ようやく、増やした発注分の自動車が納車され始めます。そして在庫は回復しますが、回復レベルを超えてしまいます。実際の傾向が確実にはわからない間に、販売店は発注しすぎていたのです。販売店はその時点で自分のミスに気が付き、発注数を減らします。しかし、過去の増やした台数での発注分が納車され続けますから、さらに発注数を減らします。実際には、ほとんど必ずといってよいほど、次に何が起こるかわからないために、発注数を減らしすぎます。在庫はふたたび、低すぎる水準になってしまいます。新たな望ましい在庫レベルのまわりを振動しながら、こういったことが続いていきます。

時間的遅れがこれらの違いを生み出しました!

販売店が間抜けだったからこうなったわけではありません。こうなったのは、タイムリーな情報を持たない(持てない)、そして、物理的な時間的遅れのために自分の行動がすぐに在庫に影響を与えられないというシステムの中で、販売店が苦労して何とかしようとしたからです。販売店には、顧客が次に何をするかはわかりません。顧客がそれをし続けるかどうかは確信が持てません。発注するとき、すぐに反応は見えません。このように、情報が不十分で、物理的な遅れがある状況は、どこにでもあるものです。こういった振動には、在庫やその他多くのシステムで、しょっちゅうお目にかかります。

熱湯と冷水を混ぜるところから、とても長い排水管を通ってシャワーヘッドからお湯の出るシャワーを浴びると考えてみてください。長い反応の遅れのせいで、シャワーのお湯が熱くなったり冷たくなったりして飛び上がることになるでしょう。

「こんな振動は耐え難いわ」と、自動車販売店の店長が言います。「時間的遅れを短くしましょう。工場からの納車の遅れについては、自分ができることはあまりないから、自分自身の反応をもっと速くしましょう。5日間ではなく、2日間の販売動向を平均して、発注を調整するようにします」

販売店が自分の認知の遅れを短くした時、ほとんど何も起こりません。強いていえば、販売店に置いてある車の在庫の振動が少し悪化します。そして、販売店が、認知するまでの時間を短縮する代わりに、反応時間を短くして、認知された不足分を、3日ではなく2日で埋め合わせようとしたら、事態はさらに悪化してしまいます。

販売店は「効果的なレバレッジを、間違った方向に押した」わけです。このように、正反対の結果になってしまうことは、よくあります。あるシステムを直そうとしている人が、実際にシステムへの強い影響力を有するレバーを間違った方向に引いてしまうのです。

ここでの問題のひとつは、自動車販売店の反応が「遅すぎた」のではなく、「速すぎた」ということです。

もし、反応時間を3日から2日に減らすのではなく、3日から6日に遅れを増やしていたら、状況は良くなっていたことでしょう。この変化によって、振動は大きく減らすことができ、システムはかなり効率的に、新しい平衡状態を見出すことができます。

このシステムで最も重要な遅れは、工場からの納車の遅れであって、それは自動車販売店には直接コントロールできないものです。しかし、システムのその部分を変える力がなかったとしても、自動車販売店は、在庫をかなり上手に扱えるようになります。

システム思考家たちが、「時間的遅れ」というテーマに対して、ある意味熱狂的である理由がわかるでしょう。私たちはつねに、システムの中で、どこで時間的遅れが生じているか、どのくらいの遅れなのか、情報の流れの遅れなのか、物理的なプロセスの遅れなのかを注意してみています。時間的遅れの中には、やり方をかえる強力なレバーになる可能性のあるものが存在することがわかっています。時間的遅れを長くしたり短くしたりすることで、システムの挙動に大きな変化をもたらしうるのです。

経済とは、極めて複雑なシステムです。時間的遅れのあるバランス型フィードバック・ループがぎっしり詰まっており、本質的に振動するものなのです。

再生不可能なストックの制約を受ける再生可能なストック ー 石油経済 #

これまでお見せしてきたシステムは、「周囲の環境からの制約はない」というものでした。しかし、実際の物理的な実態は、つねにその環境に囲まれ、環境とさまざまなモノをやりとりしています。物理的なシステムで成長しているものは何であれ、早晩、何らかの制約にぶつかることになります。その制約とは、バランス型ループの形を取ることになるでしょう。バランス型ループは、何らかのやり方で、アウトフローを強めるか、インフローを弱めることによって、成長という挙動を推進していた自己強化型ループの支配をシフトさせます。

人口であれ企業であれ、噂であれ伝染病であれ、新製品の販売であれ、成長している何かがあれば、私たちは必ず、その成長を推進している自己強化型ループと、最終的に成長を制約することになるバランス型ループを探します。システムの挙動を支配していないとしても、バランス型ループがそこにあることはわかっています。永久に成長し続けられる物理的なシステムは、現実にはありえないからです。

制約をかけるバランス型ループの源が、再生可能資源なのか、再生不可能な資源なのかによって、ある違いが生じます。それは、「成長が永久に続けられるかどうか」ではなく、「成長がどのように終わりそうか」の違いです。

新しく大油田を発見したばかりの石油会社を考えてみましょう。

ここでの資源は、石油という再生不可能なものです。資源が取り出されるにつれ、油井が枯渇し、次の1バレルの石油を掘り出すのはだんだん大変になってきます。残っている資源は、どんどん深いところのものか、より密度の薄いものになり、石油の場合なら、より不自然な圧力を掛けなければ地表に取り出すことが難しくなってきます。資源を取り出し続けるためには、技術的に高度でよりコストのかかる手法が必要となります。

ここに、究極的に資本の成長をコントロールすることになる、新しいバランス型フィードバック・ループがあります。資本が多ければ多いほど、採掘のペースが上がります。採掘のペースが上がるほど、資源のストックは減ります。資源のストックが減るほど、資本単位あたりの資源の産出高は低下し、利益が低下します。そして、投資率が低下し、したがって、資本の成長率は低くなります。資源の枯渇が、資本効率と操業コストを介してフィードバックされると想定することもできます。実際の世界では、この両方が起こります。いずれにしても、そこから生まれる挙動パターンは同じであり、昔からある枯渇のダイナミクスです。

このシステムは、当初の創業規模なら 200 年間供給できるだけの石油が油田にあるところから始まります。しかし、実際の採掘量は、40 年ほどでピークに達します。採掘量が幾何級数的に成長したときの驚くべき結果のためです。投資率が年に 10% のとき、投資ストックと採掘ペースは共に、年率 5% で増大し、最初の 14 年間で2倍になります。28 年目には、資本ストックは4倍になり、資本単位あたりの算出高が減ってくるため、採掘は遅れをとり始めます。50 年目には、資本ストックの維持コストが資源採掘からの収入を上回ってしまうので、資本の減耗に先んじて投資を続けるだけの利益が上がらなくなります。資本ストックが減るにつれ、採掘サイトはパタパタと閉鎖されます。最もコストのかかる資源は、地下に埋まったままです。それを取り出すのは、コスト的に見合わないのです。

もし当初の資源の規模が、地質学者が最初に考えたものの2倍あったとしたら、または4倍あったとしたら、どうなるでしょうか?言うまでもなく、その油田から取り出せる石油の総量は大きく異なることになります。でも、年率 5% の資本の成長を生み出す年率 10% の再投資という目標が同じであれば、もとの資源量が2倍あったとしても、採掘ペースのピークに達するタイミングは 14 年しか違いません。この採掘産業に依存している雇用や地域社会の寿命も同じです。

再生不可能な資源に頼って資本ストックを構築しているときは、大きく早く成長すればするほど、下落も速く大きくなります。採掘量や使用量の幾何級数的な成長の前では、再生不可能な資源が2倍だろうと4倍だろうと、代替案をつくり出すための時間稼ぎはほとんどできません。

もし「最大のペースで資源を取り出して、お金を儲けたい」と思っているなら、そのシステムの中で最も重要な数字は、資源の究極の規模でしょう。「自分の仕事や地域社会の安定がどのくらい続くか」を気にしている鉱山や油田の労働者だったら、重要な数字はふたつ、資源の規模と望ましい資本の成長率です。再生不可能資源の管理における実際の選択は、「素早く金持ちになるか」、「それほど金持ちにはならないが、そのやり方でより長く続けるか」ということになります。

枯渇のダイナミクスによれば、当初の資源ストックが大きいほど、新しく発見される量が多いほど、成長ループが制御ループを回避する時間が長いほど、資本ストックと採掘ペースが高く成長するほど、経済的に生産ピークの反対側に落ちていくのは、より早いタイミングで、より速く、より深くなります。

再生可能な資源によって制約を受ける再生可能なストック ー 漁業経済 #

さきほどと一点だけ違うのは、今回は資源ストックへのインフローがあり、ストックが再生可能になっていることです。

魚や木や牧草といった、生命体としての再生可能資源は、自己強化型フィードバック・ループによって、自らから自らを生み出すことができます。

漁場を例に考えてみましょう。魚の再生ペースは一定ではなく、入手可能な餌と育成域の制約を受け、再生量はゼロに近くなります。魚の個体数が少し減れば、再生スピードはより速くなります。その生態系で、食べられていない栄養や空間が利用できるからです。しかし、あるところで魚の再生量は最大に達します。魚の個体数がそこからさらに減れば、子が生まれる速度は、どんどん速くではなく、どんどん遅くなります。魚が互いを見つけることができなかったり、ほかの種がそのすきまに入り込んでくるからです。

この再生可能な資源システムに起こりうる挙動は次の3つです。

  • 行き過ぎてから、持続可能な平衡状態へと調節する
  • その平衡状態を超えて行き過ぎ、その後、平衡点あたりで振動する
  • 行き過ぎて、その後、資源とその資源に依存している業界が崩壊する

実際にどの結果が起こるかを決めるのは、次のふたつです。ひとつは、決定的な閾値であり、それを越えると、資源の個体の自らを再生する能力が損なわれてしまいます。もうひとつは、資源の枯渇につれて資本の成長を緩やかにするバランス型フィードバック・ループの素早さと効力です。フィードバックが十分に速く、決定的な閾値を越える前に資本の成長を止めることができれば、システム全体はスムーズに平衡状態に移行します。バランス型フィードバックが遅く、効力が弱いと、システムは振動します。バランス型ループがとても弱くて、資源が自らを再生する能力の閾値を下回ってもなお資本が成長し続ければ、資源も業界も崩壊します。

第 3 章:なぜシステムはとてもよく機能するのか #

これまで見てきたように、過剰に推し進めようとすると、システムはバラバラになったり、以前には見られなかった挙動を示すこともあります。しかし、だいたいにおいて、システムはかなりうまくやってのけます。そして、それがシステムの美しいところです。システムがとてもよく機能しているとき、その働きにある種の調和を見ることができます。嵐に対処しようと、フル回転しているコミュニティを考えてみてください。人々は被災者を助けようと何時間も働き、才能やスキルが姿を現します。いったん非常事態が過ぎ去れば、暮らしは「いつも通り」に戻ります。

なぜシステムは、それほどよく機能するのでしょう?「レジリエンス」、「自己組織化」、「ヒエラルキー」という3つの特徴のどれかを目にしたことがあるのではないでしょうか?

レジリエンス #

ふつうの辞書に載っている意味でよいでしょう。「押されたり引っ張られたりした後に、形や位置などを元に戻す跳ね返る力。弾力性。力や気力、ユーモアなどをすぐに取り戻す能力」。レジリエンスとは、ある変動のある環境の中でシステムが生き残り、持続する能力がどの程度あるか、ということです。

レジリエンスを生み出すものは、大激動の後でさえ、システムを立て直すためにさまざまなやり方で機能しうる、多くのフィードバック・ループからなる豊かな構造です。レジリエンスは、いくつかのバランス型フィードバック・ループが、さまざまなメカニズム、時間軸で、冗長性(ひとつがうまくいかなければ、別のものが作動する)を持って働いていることから得られます。

レジリエンスとは、「静止している」とか「時間が経過しても変わらない」ということではありません。レジリエンスのあるシステムは、極めてダイナミックなものでしょう。逆に言えば、時間が経過しても変わらないシステムは、レジリエンスを欠いている可能性があります。「静止的な安定」と「レジリエンス」を区別することが大切です。

自己組織化 #

「システムが自らの構造をより複雑にしていく能力」は、「自己組織化」と呼ばれています。

自己組織化は、不均質性と予測不可能性を生み出します。まったく新しい構造、まったく新しいやり方をもたらす可能性があるのです。自由と実験、ある程度の無秩序さが必要です。

自己組織化は、生きているシステムがつねに有している基本的な特性で、私たちはそれを当然のことと思っていますが、このシンプルなルールから、技術、物理的な構造、組織、文化といった、巨大で多種多様な面を持つ結晶が育ちます。

ヒエラルキー #

新しい構造を作り出し、複雑さを増していくプロセスの中で、自己組織的なシステムによって生み出されることが多いのが「ヒエラルキー」です。

サブシステムが集まって、より大きなサブシステムになり、それが集まってさらに大きなサブシステムになる形で組織されています。このシステムとサブシステムの配置を「ヒエラルキー」と呼びます。

サブシステムが自らの面倒をおおむね見ることができ、自らを調整・維持できて、より大きなシステムのニーズに応えることができれば、また一方でより大きなシステムがそのサブシステムの機能を調整し向上させるならば、安定した、レジリエンスのある効率的な構造が生まれます。

ヒエラルキーは、システムのどの部分であっても、把握しておくべき情報の量を減らすことができるからです。

高度に機能的なシステムであるためには、ヒエラルキーは、サブシステムとシステム全体の快適さ、自由、責任のバランスを取らなくてはなりません。大きなシステムの目標に向かって調整をはかれるだけの中央のコントロールがなくてはなりませんし、すべてのサブシステムが繁栄し、機能し、自己組織化できるだけの十分な自律性も必要です。

第 4 章:なぜシステムは私たちをびっくりさせるか #

出来事は、目を見張るようなことかもしれません。衝突、暗殺、大いなる勝利、恐ろしい悲劇など。出来事は、私たちの感情をとりこにします。テレビの画面や新聞の一面で、何千もの出来事を見てきたにもかかわらず、ひとつひとつの出来事は、その前に起こった出来事とは大きく違うため、私たちは魅惑され続けるのです。水の上に突き出している氷山の一角のように、出来事は、より大きな複合体の最も目につきやすい側面です。しかし、必ずしも重要なものとは限りません。

システムの挙動は、成長、衰退、振動、ランダムな動き、進化といった経時的なパフォーマンスです。もしニュースが、もっと上手に、出来事を過去からの流れの中に位置づけてくれれば、私たちは挙動レベルをより良く理解できるようになるでしょう。それは、出来事レベルの理解よりも深いものです。システム思考家が問題に直面したときにまず行うのは、データや時系列グラフ、システムの過去の様子を探ることです。長期的な挙動が、その根底にあるシステム構造を理解する鍵を提供してくれるからです。そして、構造は、単に何が起こっているかだけではなく、それはなぜなのかを理解する上での鍵を握っています。

システムの構造とは、互いに連動しているストック、フロー、フィードバック・ループのことです。

システム思考は、構造(ストック、フロー、フィードバック)と挙動(時系列グラフ)の間を、絶えず行ったり来たりします。システム思考家は、出来事とその結果としての振動との間のつながりを理解しようとします。

世界で行われている分析の多くは、出来事レベルよりも深くは行われません。「なぜ株式市場はそうだったか」という毎晩の説明を聞いてごらんなさい。株価が上がった(下がった)のは、米ドルが下がった(上がった)から、またはプライムレートが上がった(下がった)から、または民主党が勝った(負けた)から、またはある国が別の国に侵攻した(しなかった)から、といった具合です。「出来事 ー 出来事」の分析なのです。

こういった説明では、明日何が起こるかを予測することはできません。システムの挙動を変える力も与えてくれません。

ほとんどの経済分析は、もう一段深い、経時的な挙動のレベルで行われます。計量経済学モデルは、所得・貯蓄・投資・政府支出・利率・生産などが、過去どのような動向だったのか、その間の統計的な関連性を、多くの場合、入り組んだ方程式で求めようとします。こういった挙動に基づくモデルは、出来事に基づくモデルよりも役に立ちますが、それでもなお、根本的な問題があります。まず、システムのフローを強調しすぎて、ストックを軽視することが多いということです。経済学者が見ているのは、フローの挙動です。システムの中でも、興味深い変動や急速な進化が表れるのはそこだからです。財やサービスの総生産(フロー)に関する経済ニュースの報告を重視し、その国の工場や農場、企業など、その財やサービスを生み出す物理的な資本の全体(ストック)は見ません。

しかし、フィードバックのプロセスを通じて、ストックがどのように関連するフローに影響を与えているかを見ることなしに、経済システムのダイナミクスや、その挙動の理由を理解することはできません。

第二に、フローを互いに関連づける統計的な関連性を探そうとする中で、計量経済学者は、存在していないものを探すことになります。「あるフローが別のフローと安定した関係性を持っている」と期待できる根拠はありません。フローが、上がったり下がったり、続いたり止まったり、あらゆる組み合わせで起こりますが、それは他のフローに反応してではなく、ストックに反応して起こっているのです。

簡単な例を用いましょう。あなたはサーモスタットについて何も知りませんが、部屋の中に入る熱のフローと、部屋から出ていく熱のフローについての過去のデータをたくさん持っているとしましょう。あなたは、これらのフローが過去にどのように一緒に変動したかを説明できる方程式を見つけることができるでしょう。通常の状況であれば、同じストック(室温)のコントロール下にあるため、両者は一緒に変動するからです。

しかしながら、システム構造のなにかが変わる(だれかが窓を開けたり、断熱を改善したり、暖房システムを調整したり、灯油の注文を忘れたり)と、その方程式は成立しなくなってしまいます。そのシステムに変化がなく、うまく動いている間は、自分の作った方程式を用いて明日の部屋の温度を予測できるかもしれません。しかし、部屋の温度を上げるよう頼まれたり、室温が急に下がり始めて手を打たなくてはならなくなったり、燃料費を下げつつ同じ室温を保ちたいと思ったら、挙動レベルの分析では役に立ちません。システムの構造にまで掘り下げる必要があるでしょう。

だからこそ、挙動をベースとした計量経済学のモデルは、短期的な景気動向の予測はかなり上手にできますが、より長期的な動向の予測はお粗末で、経済の実績を改善する方法を示すという点ではまったく使い物にならないのです。

これが、あらゆる種類のシステムが私たちをびっくりさせる理由のひとつです。私たちは、システムのつくり出す出来事に心を奪われすぎており、これまでの経緯にはほとんど注意を払いません。そして、これまでの経緯の中に、挙動や出来事を生み出している構造についての手がかりを探すことが下手なのです。

第 7 章:システムの世界に生きる #

先進工業国で育ち、システム思考に夢中になる人たちは、大きな過ちを犯す可能性があります。「システムの分析、つながりや複雑性、コンピュータの力など、ここにようやく予測とコントロールの鍵が存在する」と思い込む可能性があるのです。この過ちが起こる可能性があるのは、先進工業国の考え方には「予測とコントロールの鍵がある」という思い込みがあるからです。

私も、最初はそう思っていました。私たちはみな、MIT というすばらしい教育機関でシステムを学ぶ熱心な学生として、そう思っていたものです。新しいレンズを通して見ることのできたものに魅了され、無邪気といってよいほど、私たちは多くの発見者たちがやっていることをやりました。自分たちが見いだしたものを誇張したのです。他の人々をだまそうとしてやったわけではありません。自分たちの期待と希望を表すためだったのです。私たちにとってのシステム思考は、複雑でとらえにくい頭の体操にとどまりませんでした。それは、「システムを機能させる」ことだったのです。

当然の報いが訪れたのは、「システムの直し方を理解することと、実際に取りかかってシステムを直すことは、まったくの別物だ」ということを学んだときです。私たちは熱心に、「実施」についての議論を重ねていました。その意味するところは、「どうやってマネージャーや市長、省庁のトップに、私たちのアドバイスに従ってもらうか」ということでした。

実際には、自分たちですら、自分たちのアドバイスに従いませんでした。「中毒」の構造に関して学んだことを講義しながら、コーヒーをあきらめることはできませんでした。「ずり落ちる目標」のダイナミクスをみんな知っていながら、自分たちのジョギング計画はずり落ちていきました。「エスカレート」や「介入者への責任転嫁」の落とし穴にはまらないようにと警告しながら、自分たちの結婚生活でそれらを作り出していたのです。

社会システムは、文化的な思考パターンと、人間の深いニーズ、感情、強さ、弱さを対外的に表したものです。それらを変えることは、「さあ、全部変えましょう」といえるほど、または、善を知るものは善を為すだろうと信じるほどは、簡単ではありません。

付録 #

システムの原則まとめ #

システム #

  • システムは部分の総和以上のものである。
  • システムの相互のつながりの多くは、情報の流れを通じて作動する。
  • システムのなかでも最も目につかない部分である機能や目的が、システムの挙動を決める上で最も重要であることが多い。
  • システムの構造がシステムの挙動の源泉である。システムの挙動は、経時的な一連の出来事としてその姿を現す。

ストック、フロー、動的な均衡状態 #

  • ストックとは、システム内の変化するフローの歴史の記憶である。
  • インフローの合計がアウトフローの合計を上回れば、ストックの水準は上昇する。
  • アウトフローの合計がインフローの合計を上回れば、ストックの水準は下落する。
  • アウトフローの合計がインフローの合計と等しければ、ストックの水準は変化しない ー 動的な均衡状態に保たれることになる。
  • ストックは、アウトフローのペースを落とすことによっても、インフローのペースを上げることによっても、増やすことができる。
  • ストックはシステム内で、時間的遅れ、バッファー、衝撃吸収材として機能する。
  • ストックは、インフローとアウトフローを切り離し、独立したものにすることができる。

フィードバック・ループ #

  • フィードバック・ループはストックから、ストックの水準によって定められる一連の意思決定やルール、物理的な法則、行動を経由し、フローを通してふたたび戻ってストックを変える、閉じた因果関係の連鎖。
  • バランス型フィードバック・ループは、システムの中で釣り合いを取ろうとする、または目標追求型の構造で、安定性と変化への抵抗の両方を生み出す。
  • 自己強化型フィードバック・ループは、自らを強化するもので、時間の経過とともに、幾何級数的な成長または暴走型の崩壊につながる。
  • フィードバック・ループのもたらす情報が影響を与えうるのは、将来の挙動だけである。いま現在のフィードバックを駆動している挙動を正すことができるほどの素早さでシグナルを届けることはできない。
  • ストック維持型のバランス型フィードバック・ループは、そのストックに影響を与えるインフローまたはアウトフローのプロセスを補うよう、適切に目標を設定しなくてはならない。そうでなければ、フィードバック・プロセスはストックの目標に足りなかったり行き過ぎたりすることになる。
  • 似たようなフィードバック構造を持つシステムは、似たようなダイナミックの挙動を生み出す。

支配のシフト、時間的遅れ、振動 #

  • システムの複雑な挙動はフィードバック・ループの相対的な強さがシフトし、最初にあるループが、続いて別のループが挙動を支配するにつれて生じることが多い。
  • バランス型フィードバック・ループにおける時間的遅れは、システムの振動を生じさせる可能性がある。
  • 時間的遅れの長さを変えることは、システムの挙動を大きく変える可能性がある。

シナリオとモデルのテスト #

  • システムのダイナミクスのモデルは、起こりうる将来を探り、「もし〜だったら?」と問う。
  • モデルが役に立つかどうかを決めるのは、「その推進力となっているシナリオが現実的かどうか」だけではなく(だれも確かなことはわからないので)、「現実的な挙動パターンに対応するかどうか」でもある。

システムに対する制約 #

  • 幾何級数的に成長する物理的なシステムでは、少なくともひとつの成長を推進する自己強化型ループと、少なくともひとつの成長を制約するバランス型ループがあるはずである。有限の環境において永久に成長するシステムはないからだ。
  • 再生不可能な資源は、ストックの制約を受ける。
  • 再生可能な資源は、フローの制約を受ける。

レジリエンス、自己組織化、ヒエラルキー #

  • レジリエンスはつねに限界がある。
  • システムは生産性や安定性のためだけでなく、レジリエンスのためにも管理される必要がある。
  • システムは自己組織化の特性を持つことが多い。自らを構造化し、新しい行動を作り出し、学び、多様化し、複雑化する能力である。
  • ヒエラルキーのあるシステムは、ボトムアップで進化する。ヒエラルキーの上層の目的は、下層の目的に資することである。

システムにびっくりさせられる理由 #

  • システム内の多くの関係は、非線形である。
  • 切り離されたシステムはない。世界はつながっている。システムのどこに境界線を引くかは、議論の目的による。
  • 複数のインプットとアウトプットを有する物理的なものは何であっても、層状の限界に取り囲まれている。
  • 成長にはつねに限界がある。
  • あるものの量が限界に向かって幾何級数的に成長する場合、驚くほど短時間でその限界に達する。
  • フィードバック・ループに長い時間的遅れがある場合、何らかの「先を見ること」が極めて重要である。
  • システム内のそれぞれの主体者の限定合理性は、システム全体の幸せを高める意思決定をもたらさない可能性がある。

メンタル・モデル #

  • 「世界について知っている」と " 考えている " ことはすべてモデルである。
  • 私たちのモデルは世界と強く調和している。
  • 私たちのモデルは、実際の世界のすべてを代表するにははるかに足りない。

システムの落とし穴から逃れる #

施策への抵抗 #

  • 落とし穴:さまざまな主体者がさまざまな目標に向かってシステムのストックを引っ張ろうとするとき、結果として、施策への抵抗が生じる場合がある。どんな新しい施策でも、効果的なものであれば特に、他の主体者の目標からさらに遠くへとシステムの状態を引っ張ることになり、さらなる抵抗を生み出し、だれも好まない結果を維持するために、だれもが大きな努力をすることになる。
  • 脱出法:手放すこと。すべての主体者を集めて、抵抗のために使っていたエネルギーを用いて、すべての目標を実現するための相互に満足のいくやり方を模索すること。または、全員が力を合わせて引き寄せることのできる、より大きくて重要な目標を定義し直すこと。

共有地の悲劇 #

  • 落とし穴:共有の資源があるとき、どの利用者もその利用から直接的に利益を得るが、その過剰な利用のコストは全員と分かち合うことになる。したがって、資源の状態から、資源の利用者の意思決定へのフィードバックはとても弱いものになる。その結果、資源は過剰に利用され、減衰し、最後には、だれにも使えなくなってしまう。
  • 脱出法:利用者への教育や勧告をし、資源の過剰利用の結果が理解できるようにする。また、各自が自分の過剰利用の直接的な結果を感じられるよう資源を私有化するか、(私有化できない資源もたくさんあるので)利用者全員の資源へのアクセスを規制することによって、欠けているフィードバックのつながりを取り戻したり強めたりする。

低パフォーマンスへの漂流 #

  • 落とし穴:パフォーマンスの基準が過去のパフォーマンスに左右されることを許していると(特に、悪いものに偏って過去のパフォーマンスを認知していると)、目標のなし崩しの自己強化型フィードバック・ループが生まれ、システムは低いパフォーマンスへ少しずつ流されていく。
  • 脱出法:パフォーマンスの標準を絶対的なものにしておくこと。さらによいのは、最悪のパフォーマンスにやる気をそがれるのではなく、実際の最良のパフォーマンスによって、基準を高めていくこと。高いパフォーマンスへの漂流を設定すること。

エスカレート #

  • 落とし穴:ひとつのストックの状態が、他のストックの状態を上回ろうとすることで決定されるとき(逆も同じ)、そこには自己強化型フィードバック・ループが存在し、そのシステムを、軍拡や富の競争、中傷キャンペーン、エスカレートする騒がしさや暴力に引きずり込む。エスカレートは幾何級数的で、驚くほどあっという間に極端な状態につながる可能性がある。何も手を打たなければ、そのスパイラルはだれかの崩壊によって終止符を打たれることになるだろう。なぜなら、幾何級数的な成長は永久には続けられないからだ。
  • 脱出法:この落とし穴から脱出する最善の方法は、その落とし穴の深みに入らないようにすること。エスカレートのシステムにはまったら、競争を拒むこと(一方的な武装解除)で、自己強化型ループを断つことができる。または、エスカレートを統制するバランス型ループを持つ新しいシステムを交渉することができる。

成功者はさらに成功する #

  • 落とし穴:競争の勝者が再び勝つための手段を報酬として与えられるシステムになっていると、自己強化型フィードバック・ループが形成され、そのループが阻害されることなく回ると、最後に勝者はすべてを得て、敗者は消え失せることになる。
  • 脱出法:多様化すること。それによって、競争に負けている人がゲームから降りて、新たにゲームを始めることができるようになる。だれであれひとりの勝者が手に入れられる割合を厳しく制限すること(独占禁止法)。条件を公平にする施策。それによって、最強のプレーヤーの優位性の一部を取り除いたり、最も弱いプレーヤーの優位性を高めたりする。次回の競争に偏りを生じないように、成功に対する報酬を工夫する施策。

介入者への責任転嫁 #

  • 落とし穴:責任転嫁、依存、中毒が生じるのは、「システムの問題に対する解決策が、症状を減らす(または隠す)が、根本的な問題を解決することは何もしない」ときである。人の知覚を鈍らせる物質にせよ、根本的な問題を隠す施策にせよ、選んだ " 麻薬 " は、実際の問題を解決しうる行動のじゃまをする。問題を正すための介入に酔って、元々のシステムの自己維持力が弱まったり損なわれたりすると、その後、破壊的な自己強化型フィードバック・ループが動き出す。システムは悪化し、そうすると、解決策がさらに多く必要となる。システムは、介入への依存度を高めるようになり、自らの望ましい状態を維持することはますますできなくなっていくだろう。
  • 脱出法:繰り返しになるが、この落とし穴を避ける最善の方法は、落とし穴にはまらないことである。実際には問題に取り組むわけではない、症状を和らげたり、シグナルを否定するような施策に注意すること。短期的な苦痛の除去に注目するのをやめ、長期的な再構築に注力する。自分が介入者なのであれば、システム自体の問題解決能力を取り戻す、または高めるようなやり方で取り組み、そのあと、自分自身は身を引くこと。もし自分が支えがたいほど依存している側なのであれば、介入を外すまえに、自分のシステム自体の能力を構築して戻しておくこと。早ければ早いほどよい。先送りすればするほど、抜け出すプロセスは困難なものになるだろう。

ルールのすり抜け #

  • 落とし穴:システムを統治するルールは、ルールのすり抜けにつながる可能性がある。それは、「ルールに従っている」、「目標を達成している」という見かけを与えながら、実際にはシステムをゆがめる、邪悪な行動である。
  • 脱出法:ルールのすり抜けの方向ではなく、ルールの目標を達成する方向に創造性を解き放つよう、ルールを設計したり、設計し直すこと。

間違った目標の追求 #

  • 落とし穴:システムの挙動は、フィードバック・ループの目標に特に敏感である。目標(ルールを満足したという指標)の定義が不正確または不完全だと、システムは従順に機能して、実際には意図していない、または望んでいない結果を生み出すかもしれない。
  • 脱出法:システムの実際の福利を反映する指標や目標を明確に示すこと。特に、「結果」と「それを得るための努力」を混同しないように気をつけること。そうでないと、「結果」ではなく、「努力」を生み出すシステムになってしまうだろう。